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ことばの樹

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文芸作品と金城学院大学のことが大好きな教職員が結成した文芸俱楽部「ことばの樹」。四季折々で表情を変える美しいキャンパスやいきいきとした学生達の雰囲気などを掌編小説で紹介します。
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#小説

ことばの樹

文芸作品と金城学院大学のことが大好きな金城学院大学教職員が集まり、クラブを結成しました。 文芸倶楽部 「ことばの樹」 部員達がオリジナリティ溢れる感性で掌編小説を執筆します。 四季折々で表情を変える美しいキャンパスやいきいきとした学生達の雰囲気など、さまざまな情景が思い浮かぶ作品を紹介します。 部員紹介 加藤 大樹 金城学院大学人間科学部多元心理学科教授。 文芸倶楽部ことばの樹の部長。 アートセラピーや対人関係の研究に取り組んでいる。 学生時代から小説の執筆も続け,

せっちゃん(前編)

※連載小説「リリィ」は、金城学院大学を舞台にした物語です。 この物語はフィクションであり、実在の人物とは関連がありません。 大学から駅までの下り坂を足早に降りていく。この春新しく買ったばかりのショルダーバックに、何枚か桜の花びらがついているのに気づいた。今年は開花が遅かった桜の花も、一年に一度のお披露目の時期を終えて、はらはらと宙を舞っている。腕時計に目をやると、五時少し前。 「急がないと間に合わないかな」 4限の授業の後、聞き逃した箇所のノートを友人に見せてもらっていたら

トロピカルジュース

「トロピカルジュースいかがですかー?」 「フルーツたっぷりで甘くておいしいですよ!」 久しぶりの大学のキャンパスは、学園祭の活気に満ちている。 「ねえ、トロピカルジュースだって。おいしそうじゃん。行ってみようよ」 友人にそう誘われ、元気な声のする白いテントに向かって一緒に歩いていく。 「ありがとうございましたー!」 後輩たちに手渡された透明なプラスチックのカップから、甘い香りがふわっと届く。私のカップにはオレンジ色のマンゴージュース、友人の手元には黄色いパイナップルジュース

相棒

通学路の途中、玄関先のプランターに季節の花をきれいに咲かせた家がある。 豪華な邸宅というわけではないけれど、いつも丁寧に掃除や手入れがされていて、おしゃれな雰囲気が私は好きだ。 一時間目の授業がある時に家の前を通ると、だいたいいつも、この家に住むおばあさんが、花たちのためにじょうろで水を注いでいる。 朝はいつも気持ちが焦っていて、足早に歩いている私に、おばあさんは、 「おはよう」 と優しく挨拶をしてくれる。 私も歩調を緩めて、 「おはようございます」 と返す。気ぜわしい朝に