それぞれの居場所で、日々を生きていくということ
夜、眠りについて目覚めると次の朝がやってきます。
当たり前のようですが、それを繰り返して毎日を生きていくことは簡単ではないと、感じるときがあるかもしれません。大きな苦難を乗り越え、時には心を痛める悩みを抱えながら、前へ進んでいくにはどうすればいいのか…。
今月、名古屋市内のミニシアターで上映される女性が主人公の映画を通して、〝生きていくこと〟という大きなテーマについて、あらためて向き合ってみませんか。
■『朝がくるとむなしくなる』
生きづらさを抱えた女性の再生の物語
会社を辞めてコンビニでアルバイトをする希は、慣れない接客業に戸惑い、会社を辞めたことを母にも伝えられていない。むなしい思いで朝を迎える日々が続いていたが、ある時、中学時代の同級生、加奈子がバイト先に偶然やってきたことから、希の日常が少しずつ変わっていく―。『朝がくるとむなしくなる』は、人生に諦めを感じている女性が元同級生との再会をきっかけに、自分らしさを取り戻していく再生の物語。
作品を上映するシネマスコーレの支配人・坪井さんに、映画の見どころを伺いました。
― 主人公は少し生きづらさを抱えている女性。どんな人物なのでしょうか。
坪井:いろんな苦しみがあって生きづらさを抱えてはいますが、普通に世の中にいそうな女性です。仕事を辞めて引きこもりになったり、まったく違う世界に飛び込んだりというのではなく、生活するためにコンビニでアルバイトをしている。なんだかすごくリアルですよね。
― 現実的な設定は、観る人が共感しやすいのかもしれません。
坪井:偶然再会するのが親友だった人物ではなくて、名前と顔を覚えているくらいの同級生というのもいいですよね。構えたり自分を装ったりせずに、自分のことを話しやすい距離感なのでは、と感じました。
監督とキャストのアンサンブルが叶えた自然な空気感
― 偶然の再会はあるものの、あまり大きな出来事は起こらない展開でしょうか。
坪井:そうなんです。奇跡のような出来事や劇的なドラマは起こりません。再会した2人がボウリングに行ったり、食事をしたり、一緒に時間を過ごすうちに、主人公の希は自分の生きづらさを話せるようになる。淡々としているようでいて、作品の最初と最後では希が別人のように変わっていて、まさに再生の物語なんだなと感じられます。
― 主人公と元同級生を演じた、唐田えりかさんと芋生悠さんは元々友人同士だそうですね。
坪井:その関係性をふまえて、2人とも話をしたうえで監督は脚本を書いたそうです。3人の信頼関係によるアンサンブルがあったからこそ、できた作品かなと思います。唐田さんと芋生さんがおしゃべりするシーンは、ずっと見ていたくなるくらい自然体ですが、後半のカギになるシーンでは2人の役者としてのすごさが感じられるのでぜひ注目して観てくださいね。
『朝がくるとむなしくなる』の予告編はこちら
■『かづゑ的』
生きることを決してあきらめない女性の人生
瀬戸内海にある国立ハンセン病療養所、長島愛生園。10歳で入所した宮﨑かづゑさんは、約80年間ずっとこの島で生きてきました。患者同士のいじめに遭い、つらかった子ども時代も、家族の愛情や愛読書を支えに乗り越えてきたかづゑさん。島で出会った夫と穏やかな日々を過ごし、年齢を重ねた今でも新しいことに挑戦しています。
『かづゑ的』は、かづゑさんの著書に心を打たれた監督が、8年にわたってかづゑさんの人生を撮影したドキュメンタリー映画です。
― ハンセン病の元患者である女性が主人公ですね。
坪井:とはいえ、ハンセン病のドキュメンタリー映画ではなく、あくまでもかづゑさんという女性のお話で、彼女の人生と向き合う作品だと感じました。
彼女の人生にはつらいことがたくさん起こるのですが、彼女は生きることを決してあきらめない。すごく前向きで力強い人なんですよね。
― かづゑさんが前向きに生きることをあきらめずにいられた理由はなんでしょうか。
坪井:その一つには、そうさせない人の存在があったからかもしれません。お母さんやご家族、結婚されてからは旦那さんですよね。作品の後半はかづゑさん夫婦の話が中心になるのですが、わかってくれる人が近くにいることの大切さが感じられますね。特に言葉にしなくても、阿吽の呼吸でわかるというのか…。夫婦のつながりの深さが、映画を通して伝わってきます。
〝やろうと思えばできる〟の精神で挑戦を続ける
― かづゑさんはとても魅力のある人のようですね。
坪井:作品を観ていて感じたのですが、かづゑさんは本当にかわいらしくて、チャーミングでもあるんですよね。感情表現も豊かで、昔のことを思い出して泣く様子は、まるで10代の少女のようでした。その姿を見ているだけで、どんなことがあったのか語らなくても伝わってきます。
― 70代になってからパソコンを覚えるなど、新たなチャレンジもしてきたとか。
坪井:84歳で初の著作を出版するなど、つらい過去を受け止めつつ今を謳歌しているように見えましたね。「できるんよ、やろうと思えば」という彼女の言葉の通り、マイナス思考にならずプラスに変えていく、それがかづゑ的なのかなと思いました。生き生きとしていて、周りに影響を与えていく人ですね。
初日には監督と、ナレーションを担当した女優の斎藤とも子さんの舞台挨拶もありますので、こちらもどうぞお楽しみに。
『かづゑ的』の予告編はこちら
シネマスコーレ劇場情報
シネマスコーレ
映画監督の若松孝二氏が1983年に立ち上げた、名古屋駅西口にあるミニシアター。2023年に開館40周年を迎えた。アジア映画、日本映画、インディーズ作品などを中心とした多彩なプログラムに加えて、作品を盛り上げるイベントにも力を入れている。
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