古典と現代が交響する日本の擬人化文化とは?
擬人化のルーツは古代にまでさかのぼる。
動物や武器、国や都道府県、果ては細胞に至るまで、身の回りのあらゆるものや概念をキャラクターにしたゲームやアニメが一大ブームを巻き起こしています。
そのブームの先駆けとも言われているのが、2003年初出の備長炭を擬人化したキャラクター『びんちょうタン』。
その後も、戦艦を美少女に擬人化した『艦隊これくしょん』(2013年初出)、歴史に残る名刀をイケメン男子に擬人化した『刀剣乱舞』(2016年初出)などが立て続けにヒット。
さらに2021年には、実在した名競走馬を擬人化した美少女たちが勝利をめざしてレースに挑む『ウマ娘』がリリースされ、アニメファンはもとより競馬ファンも取り込んで大ヒットを記録するなど、擬人化は現代のサブカルチャーにおける有力コンテンツのひとつとなっています。
実はこの擬人化、日本では古くから用いられてきた手法で、そのルーツは古代にまでさかのぼります。
では、日本における擬人化はどのような歴史をたどってきたのでしょうか。
古代神話は、擬人化のルーツにして宝庫!
日本人は、古代から狩猟や採集、稲作を通じて、自然と関わりながら生活をしてきました。
自然の恵みにあやかる一方で、台風や日照り、雷など、自然現象の脅威にもさらされる中で、人々は自然物や自然現象のすべてに神が宿ると考えるようになり、それを畏れ敬いました。
これが「アニミズム」という思想で、日本最古の古典文学『古事記』(712年成立)や『日本書紀』(720年成立)には、自然現象や動物を擬人化した多くの神々が登場します。
そのひとつが、白兎神社(鳥取市)の由緒である「因幡の白兎」。
白兎が、出雲の大国主命と因幡の八上姫との縁を結んだことから、いまも縁結びの神として信仰を集めています。
伊勢神宮(伊勢市)の祭神で皇室の祖でもある天照は太陽を擬人化した女神で、人間と同じような感情を持ち、行動し、食事もする女性として描かれています。
また、春日大社(奈良市)の祭神、武甕槌命は、雷や剣、武力を擬人化した神で、彼が白鹿に乗って奈良にやってきたことから、鹿は神のお使いとして大切にされるようになりました。
多種多様な擬人化表現が花開いた中近世。
平安時代末期から鎌倉時代初期に描かれた国宝『鳥獣戯画』は、擬人化された兎や蛙、猿が水遊びをしたり、相撲を取る姿がユーモラスに描かれています。
擬人化がひとつの文化として花開いたのが室町時代で、この時代に確立された能には、『雪』、『杜若』、『芭蕉』、『西行桜』など、植物や自然の情景を擬人化した演目が数多くあり、その幽玄な美は能の芸術性を高めました。
また、室町時代に編まれた御伽草子の中でも人気の高い『鼠草子』は、たくさんのネズミたちが人間のように着物を着て生活している様子が愛らしいタッチで描かれています。
江戸時代に入ると擬人化は庶民の間でさらに広がり、歌舞伎や文楽、文学など、さまざまな分野で魅力的な擬人化作品が生まれ、人気を博しました。
浮世絵の分野でも、浮世絵師たちが、動植物から生活道具、化物まで、あらゆるものを擬人化。粋で遊び心あふれる作品は長い年月を経たいまも色褪せない魅力を放っています。
また、古くから語り継がれてきた桃の擬人化ヒーローが活躍する『桃太郎』や鶴を擬人化した女性が登場する『鶴の恩返し』といったおとぎ噺も、江戸時代に広まり、定着したと言われています。
擬人化は時代とともに描かれ方を変え、近年はアニメやゲーム、テレビCMなど複数のメディアと連動しながら、あらゆるものを美少女やイケメンキャラクターにする“擬人化コンテンツ”が注目を集めています。
日本には擬人化を生み出す土壌がある。
人間以外のあらゆるものを擬人化し、キャラクター化することを得意とする日本。その発想や想像力に驚く外国人も多いそうです。
もちろん、こうした擬人化は海外にもあり、ディズニーの『ミッキーマウス』や『くまのプーさん』、『きかんしゃトーマス』や『スヌーピー』も擬人化作品です。
それでも、“擬人化は日本のお家芸”と言われ、大人も子どもも違和感なく受け入れ、楽しむことができる背景には、日本には古来より「万物に神が宿る」という考えがあり、日本の文化や暮らしの中に深く根づいていることがあげられると思います。
古代神話に見る擬人化を源流に、時代という大きな流れの中で連綿と描き継がれてきた擬人化作品の数々は、まさに古典文化・伝統文化から現代文化への軌跡そのもの。
古典と現代が互いに響き合いながら、擬人化の未来へとつながっていきます。
文化を紐解き、日本人の心を知る。
それが文学部 日本語日本文化学科
2017年4月掲載 『車内の金城学院大学 97限目』 はこちら
金城学院大学 文学部 日本語日本文化学科 のページはこちら
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