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真夏日に、かき氷の本を

エアコンで冷えた部屋は快適ですが、外は蒸し暑いのが日本の夏。汗が止まらない暑い日に食べたくなるのは、見た目も涼やかな「かき氷」ではないでしょうか。

赤、青、黄色のシロップをかけた昔懐かしいかき氷は、この十数年ほどで驚きの進化を遂げ、“ゴーラー”なるかき氷愛好家も増やしています。
 
そこで今回は、かき氷をテーマに「ひらく本屋東文堂本店」の木野村直美さんにとっておきの2冊を選書してもらいました。


■『にっぽん氷の図鑑&かき氷』

専門店以外の<進化系かき氷>に注目した一冊

著者は、映画や人気テレビ番組のプロデューサーとして活躍した原田泉さん。自身を“ゴーラー(かき氷愛好家)”であり、かき氷広報家と名乗り、これまでに『にっぽん氷の図鑑』や『一日一氷』といったかき氷本を出版。

本書は、専門店以外のかき氷を中心に紹介。かき氷界のニューカマーや人気のフードエッセイスト平野紗希子さんとの対談など、サブコンテンツも魅力的なガイドブックです。
 
― 木野村さんは、この本のどんなところに惹かれましたか。

木野村:ひと昔前まで、かき氷と言えば削った氷にシロップをかけたものでしたよね。それがこの本で紹介されているものはどれも芸術作品のよう。味はもちろん、見た目の進化もスゴイですね。紹介文には、店主や作り手の皆さんの並々ならぬこだわりが綴られていて、一杯にかける情熱にも驚きました。
  

昔も今も、かき氷は日本の夏の風物詩。

― かき氷は、日本の夏を象徴する食べものですよね。かつては駄菓子屋や祭りの屋台のお楽しみというイメージでしたが、今では専門店が生まれ、和菓子店、レストラン、フードトラック、旅館など、ジャンルを問わずかき氷を提供する店が増えていることが分かりますね。

木野村: 10年ほど前に、日本が誇る和食がユネスコ無形文化遺産に登録されましたよね。食に対する美意識や繊細さは、日本人特有のセンス。現代のかき氷を、いま流行りの<映え>というひと言でまとめてしまってはもったいないと思いました。日本人の食に対する美意識がこうした進化を後押ししているのではないでしょうか。
 
― ガイドブック的な紹介ページのほかに、様々なテーマで書かれたサブコンテンツも充実していますよね。記者偏愛のかき氷紹介、完成度の高い自作氷を発信するインスタグラマーの紹介、かき氷機についての考察などもありました。


木野村:サブコンテンツにも驚きと発見が詰まっていますよね。個人的に驚いたのは、かき氷を料理のペアリングとして捉えて、食事のひとつとして楽しむという発想です。会席料理や焼肉、ラーメンの締めにかき氷、という粋な楽しみ方が紹介されていて、目からウロコが落ちました。かき氷は、それだけでも十分楽しめるものですよね。でも今度かき氷を食すチャンスが巡ってきたら、ペアリングという視点で味わってみたいと思っています。
 

― とくに気になったかき氷やお店はありますか?

木野村:この中からひとつは選べませんね。もし「10軒選んでください」と言われても選べそうにありません…。どの店のかき氷も魅力的で、叶うなら全部行きたいぐらいです。私の中にあるかき氷は、いまも変わらず“昔懐かしく郷愁を誘うもの”なのですが、新しいかき氷を味わってみたら世界が広がりそうです。

書籍情報:『にっぽん氷の図鑑&かき氷』

『にっぽん氷の図鑑&かき氷』
著:原田 泉
発行:ぴあ株式会社

■『海のふた』

新しい一歩を踏み出そうとする女性たちの物語

よしもとばななさんが、毎年夏になると訪れるという西伊豆の海辺の町を舞台に、自分らしく生きる道を探す2人の女性を描いた小説。短大を卒業して故郷に戻り、海辺でかき氷店を始めることにした<私>が、大切な人を失って傷ついてやってきた<はじめちゃん>と過ごす束の間の日々を通して、暑い夏を愛おしむ気持ちが湧いてきます。
 
― こちらの小説を選んだ理由を教えてください。

木野村:この作品には、名嘉睦稔さんの版画が26点も収録されています。物語の内容もさることながら、その挿絵が素敵です。夢中で読んでいると、ふとしたタイミングで挿絵のページが入るのですが、それは前後のシーンを描いているわけではないようです。それで「なぜこの絵なのだろう」と疑問に思って立ち止まる。それまでの流れを振り返りながら、二人のやりとりや情景を噛みしめて、また続きを読み始めて…。物語に流れる時間に身をゆだねるような感覚でページをめくるうちに最後のページにたどり着く。そんな読書体験を味わってもらいたいなと思いました。
  

まっすぐに伝え合う二人の会話が心に染み入る

― とくに印象に残るシーンは、どこですか。

木野村:<はじめちゃん>が、交際している男性について話すシーンですね。彼女は顔と身体にひどい火傷を負って、黒ずんだ傷跡が痛々しく残っています。彼女は「私にこのやけどのあとがあるから、好きなんじゃないかって思わせられるところがあるんだよね、その人…」と自信がなさそうに言います。その言葉に<私>が返した言葉が、実にストレートで素朴なのです。同情するでもなく、慰めるでもない。二人の距離感や関係性が表れたやりとりだなと思いました。どんな言葉を返したかは、ぜひ本書で読んでみてください。
 
― 主人公が営むかき氷屋のメニューは、削り氷にシロップをかけただけのシンプルなものですね。メニューは4つ。もし味わえるならどれを注文したいですか?

木野村:きび砂糖で作った自家製シロップをかけた「氷すい」ですね。湿った海風が入ってくるような場所で、ギラギラ照り付ける太陽を感じながら「今日も暑いね」と言いながら味わうかき氷は、やっぱりシンプルが似合います。西伊豆の海辺の風景や、飾り気はないけれどお互いに対する優しさに満ちた二人の会話もリンクして、なんとも言えない情緒が醸し出されています。この小説を読むと、<私>の店でかき氷を食べながら夏の暑さを確かめるような、特別なひと時を感じられると思います。
  

書籍情報:『海のふた』

『海のふた』
著者:よしもとばなな
発行:中央公論社

岐阜県多治見市にある「ひらく本屋東文堂本店」の情報はこちら

ひらく本屋東文堂本店
創業120余年の歴史を有し、学校図書の販売も手掛ける地域密着の老舗書店。現在は、JR多治見駅から徒歩5分のながせ商店街にあるレトロな複合施設「ヒラクビル」内に本店を構える。本の持ち込みOKのカフェ「喫茶わに」も併設され、こだわりの珈琲とスイーツを楽しみながら読書を楽しむこともできる。

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