日本中が注目した事件の再検証を通して、物事の見方を再考してみる
“きっと○○に違いない”。
確かな証拠はなくても、なんとなくそう思い込んでしまうことはないでしょうか。
それがちょっとした行き違いなら、話し合いなどで誤解を解いて解決できそうです。でも、それが重大な事件をめぐる判断だとしたら、取り返しのつかないことになってしまいます。そんなこと、ありえないのでは?と決めつけず、自分なりに確かめてみようとする姿勢があってもいいかもしれません。
■『Mommy マミー』
事件について当事者の家族も語る
1998年7月に起きた、和歌山毒物カレー事件。夏祭りで提供されたカレーに猛毒のヒ素が混入し、67人がヒ素中毒を発症、小学生を含む4人が亡くなりました。犯人として逮捕されたのは近くに住む女性、林眞須美。彼女は容疑を否認しましたが、2009年に最高裁で死刑が確定。今も獄中から無実を訴え、弁護団は再審を請求しています。
ドキュメンタリー映画『Mommy マミー』は、この最高裁判決に異議を唱える作品。眞須美の夫・林健治や、確定死刑囚の息子として生きてきた林浩次(仮名)も事件について語っています。
作品を上映するナゴヤキネマ・ノイの支配人・永吉さんに、映画の見どころを伺いました。
― 最高裁判決に間違いがあるのだろうかと思ってしまいます。
永吉:最高裁判所の前に地方裁判所と高等裁判所でも裁判が行われ、その都度きちんと検証がされているはずですから、そう考えるのが普通ですし、そうでなくてはと思います。しかし、冤罪ではないかと言われる事件でも、最高裁判決まで出ていますから、ありえないことではないんじゃないでしょうか。
要約の仕方によって変わる印象
― 証拠として採用された目撃証言や科学鑑定を、監督が検証しているのですか?
永吉:無実を証明しようとしている弁護団が検証したものを、監督が再検証しているという方が適当かもしれません。二転三転している目撃証言についてあらためて確かめてみたり、ヒ素を分析した当時の科学鑑定についても、別の方法を使うと異なる鑑定結果が出ることを明らかにしたりしています。
― 当時を思い起こすと、はっきりとした証拠に基づくものではなく、なんとなく“疑わしい人物”という空気が作られていったように思います。そこにはマスコミ報道の影響も大きかったかと。
永吉:家に押し掛けた報道陣に林眞須美さんがホースで水をかける映像は、強い印象を与えましたが、あれは何かきっかけがあって起きた反応ですよね。でも当時は、そのきっかけの方にはほとんど考えが及んでいなかったのでは?と思います。あの出来事がどうして起きたかは映画の中に取り上げられていますので、確かめてみてください。
― 報道が一部を切り取って伝えてしまうことに問題があるのでしょうか。
永吉:取材した内容は多かれ少なかれ要約して伝えられることになります。それは、この映画も同じですよね。要約することは、切り取ると言い換えられるかもしれない。ただ、そのやり方は丁寧に行う必要があると思います。
人生を大きく変えられてしまう関係者
― 林眞須美さんの息子がこの作品に出てきます。映画の公開を見合わせてほしいという要望を出したこともあったようですね。
永吉:プライバシーに抵触する部分がありますし、迷いもあったのではないかと思います。ただ、映画自体は彼の今の生活を尊重して作ろうとしているように感じました。
― 事件の関係者、家族にも影響が及んでいるということですね。
永吉:当然、本人以外の家族も大きな影響を受けてしまいます。特に子どもの場合は大変だろうと思います。彼は事件当時、まだ小学生でしたからね。映画の中では彼の人生は詳しく描かれませんので、想像してみてほしいところですね。
事件の当事者ではない私たちは、与えられた断片的な情報から、“きっとこうだろう”と思って見てしまう。鵜呑みにしてそのまま思い込んだり、逆にすべてを疑ってみたり、どちらにしても印象によるものでしかない。冷静にいろいろな情報を読み取って、自分で考えることが大切だとあらためて感じさせられる作品です。
『Mommy マミー』の予告編はこちら
ナゴヤキネマ・ノイ劇場情報
ナゴヤキネマ・ノイ
2024年3月名古屋・今池に誕生したミニシアター。元名古屋シネマテークのスタッフが代表となり、映画館の存続を望むファンや映画関係者、今池の人たちの期待に応えて立ち上げた。「何か」を持ち帰ることのできる、ミニシアターならではの映画体験を提供する。
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