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SNS時代のいま、読みたい本

ネットやSNSでのマナーやプライバシーに関わるトラブル。
自分には関係ないと、他人事にしておくのは危険かもしれません。
なくてはならないコミュニケーションツールとなった今、私たちに求められるものとは何でしょうか。

岐阜県多治見市の「ひらく本屋 東文堂本店」店長の木野村直美さんが、「いまこの時代を生きる多くの人に読んでほしい」と手渡してくださった2冊をご紹介します。
  

■ 『二番目の悪者』

都合のよい嘘やうわさ話に惑わされて

一国の王になるために、根も葉もないうわさを流した金のたてがみを持つライオン。その標的となったのは、街はずれに住む心のやさしい銀のライオンでした。周囲の者たちを信じ込ませることに成功した金のライオンは、王の座に。ところが、国は思いもよらない顛末てんまつに…。罪深いのは、金のライオンだけなのか。深い問いを投げかける、大人のための絵本です。
 

― うわさ話を信じることの怖さは、いまの時代に限ったものではありませんが、とくに昨今取り沙汰される誹謗中傷のトラブルを思い起こしますね。
 
木野村:登場するのは動物たちであくまでフィクションですが、とてもリアルに感じられますよね。この物語の悪者は、自分の欲のためにうわさ話を吹聴した金のライオンだけでしょうか。金のライオンが描かれた表紙には、『二番目の悪者』とあります。では、一番目の悪者は?うわさ話を信じてしまい、「銀のライオンに気を付けた方がいい」と周りに助言をした動物たちは、どうでしょう。心配、不安、「また誰かがひどい目に合わないように私が教えてあげなくては」という気持ちだったのかもしれません。けれど実際は、知らず知らずのうちに銀のライオンを傷つけることに加担していたのです。
 

間違った正義の向こうで、誰かが傷ついている

― 嘘やうわさ話が真実にすり替わって国が荒廃していく描写には、緊張感を感じました。
 
木野村:あなたも知っておいた方がいいよ、という間違った正義で、人に吹聴してしまうことって誰しもあると思うんです。でも、この物語に登場する動物たちが、うわさ話を鵜吞みにせず、まずは真実を自分で確かめようと努力していたら、結末はどうだったでしょうか。瞬時に情報がアップデートされる時代だとしても、真実を自分の目で確かめるという意識は持ち続けたいものです。
  

詩人でもある著者の描き方も魅力

― 著者の林木林さんは、絵本作家として多くの作品を手がけていらっしゃいますよね。本書のようなチクリと棘のある絵本というより、子ども向けのものが多い印象です。

木野村:林さんは、当たり前の生活の中で見過ごしがちな部分に気づくことができる感性の豊かな作家さんだと思います。金のライオンが抱く欲望に対しては、否定するのではなく寄り添いながら疑問を定義しています。この本の教訓を、読者が素直に受け止められる理由は、こうした描き方も魅力になっているのだと思います。言葉の選び方、心情や情景の描き方に、詩人でもある林さんの豊かな表現力が垣間見えるところも魅力です。

― 子どもたちはどんな反応をするのでしょう。読み聞かせて「悪者はだれ?」と聞いてみたくなりました。

木野村:これからSNSを使っていく世代のための本でもありますよね。小学生や中学生にこそ読んで欲しい本だと思い、多治見市内の小中学校にも学校図書として推薦しました。真実を自ら確かめようとする行動力、他人に惑わされない強い心、人の気持ちを理解する力を育ててくれると思います。
 

書籍情報:『二番目の悪者』

『二番目の悪者』
作:林 木林 絵:庄野ナホコ
発行:小さい書房

■『バック・トゥ・レトロ 私が選んだもので私は充分』

「自分の幸せとは何か」を見つめ直す

自ら実践する「シンプルな生き方」を発信し、フランスをはじめアジア各国で著作が累計250万部を超えるドミニック・ローホーさんによる、幸せに生きるための指南書。モノや情報があふれ、競争が競争を呼ぶ世界に生きる私たちが、なぜ不安や不満にとらわれたり、生きることに疲れてしまうのかを説き、幸せに生きるためのコツを伝授してくれます。
  

― この本を選んだ理由を教えてください。

木野村:ネットやSNSに関連した記述が多く、これから社会へ出ていく人にはとくに読んでもらいたいと思いました。情報があふれるいまの時代、自分の幸せとは何かを定義することが難しくなっているように思います。多くの情報を集めて選択に悩んだり、人と比べて自分を過小評価しては、幸せな生き方は見つかりませんよね。ネットやSNSがもたらす弊害を知って、自分の幸せとは何かを考えてみてもらいたいと思いました。
  

― 副題にある『バック・トゥ・レトロ』の “レトロ”は、直訳すると懐古主義ですよね。

木野村:そうですね。ですがそれは、後戻りや古きよき時代への郷愁ではなく、「つねに無理をして、より上の生活を追い求めていく駆け足人生をやめること」と書かれています。
 
― それは、どのような意味だと感じましたか。

木野村:私がイメージした“レトロ”は、現在の自分の基盤を作った過去の生活や思考。つまり、自分らしさです。人と比べて欲に翻弄されるのではなく、「私はこれで充分満たされている」と知ることが、幸せなのではないでしょうか。本の解釈は、いつだって読む人の自由で良いと思うのです。何年もたってまたページを開くと感じ方が変わるように、読む人それぞれの感じ方をしてもらいたいですね。
  

簡素な生き方を通して、自分らしさを磨こう

―「本はこれからも私たちの砦」や「手書きのすすめ」、「日記を書く」など、すぐ始められる実践的なアドバイスもためになると感じました。

木野村:ローホーさんは、これはやめた方がいいという否定ではなく、こうするともっと人は自然でいられるのでは?という丁寧な語り掛けをしてくれています。読者にとっては励ましのようにやさしく心に響くのではないでしょうか。
 
― 最後に、木野村さんが本書の中でとくに好きな章やページを教えてください。

木野村:1つに絞るのはとても難しいのですが、しいて言えば「ネットを使うほど錆びつく五感を蘇らせる」の章でしょうか。 何の変化もない、時間に追われる日々を過ごしがちな今ですが、感じることが違っていれば、その日常生活も鮮やかで豊かなものになるはずですから。
  

書籍情報:『バック・トゥ・レトロ 私が選んだもので私は充分』

『バック・トゥ・レトロ 私が選んだもので私は充分』
著:ドミニック・ローホー 訳:原 秋子
発行:講談社

岐阜県多治見市にある
「ひらく本屋 東文堂本店」の情報はこちら

ひらく本屋 東文堂本店
創業120余年の歴史を有し、学校図書の販売も手掛ける地域密着の老舗書店。現在は、JR多治見駅から徒歩5分のながせ商店街にあるレトロな複合施設「ヒラクビル」内に本店を構える。本の持ち込みOKのカフェ「喫茶わに」も併設され、こだわりの珈琲とスイーツを楽しみながら読書を楽しむこともできる。

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