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国宝「源氏物語絵巻」、その尽きせぬ魅力とは?

55限目 源氏物語絵巻
『「絵巻」が「源氏物語」の世界を甦らせる?!』
文学部 日本語日本文化学科

2013年10月掲載「車内の金城学院大学」

千年の時を超えて読み継がれてきた『源氏物語』。

今からおよそ千年前の平安時代中期、世界最古の長編小説とも言われる 『源氏物語』 が生まれました。作者は紫式部。
 
光源氏を主人公に、平安貴族の華やかな恋愛模様を描いた54帖の物語は、今もテレビドラマや映画、漫画、オペラ、歌舞伎などさまざまに広がりを見せ、人々を魅了し続けています。
 
2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』も、主人公が『源氏物語』の作者、紫式部ということで話題を集めたのは記憶に新しいところです。
  

現存する最古の源氏絵、国宝「源氏物語絵巻」。

『源氏物語』の絵画化は、物語成立後間もなくして始まったとみられ、以後、各時代を通じて、絵巻や色紙、屏風、扇、掛軸など、物語の名場面を描いた絵画作品が数多く作られ、「源氏絵」と呼ばれるひとつのジャンルを築いてきました。
 
なかでも、『源氏物語』が書かれてから約100年後に製作されたと言われる国宝「源氏物語絵巻」は現存最古の源氏絵で、原作に近い時代の雰囲気をよく伝えています。
 
この絵巻は、『源氏物語』の各帖から1~3場面を抜き出して描いた絵と詞書(ことばがき)を交互につないだもので、長いものでは数メートルにも及び、巻物を右から左へ広げながら、物語の移り変わりを楽しむことができます。
 
製作された当初は80~100場面あったと推測されますが、長い年月の間に散逸し、現存するのはわずか19場面。そのうち15場面が名古屋の徳川美術館に、4場面が東京の五島美術館に所蔵されています。
 

絵と書が響き合って、雅やかな物語世界を甦らせる。

「源氏物語絵巻」の魅力は、登場人物の装束や邸宅内の調度品、宮廷行事、四季折々の自然描写など、すべてが細やかに、丁寧に描かれていること。
 
千年後に生きる私たちが、さまざまなカタチで視覚化された『源氏物語』を楽しめるのは、こうした絵巻が大切に受け継がれ、平安貴族の暮らしや宮廷文化を鮮やかに伝えてくれるからなのです。
 
また、登場人物の複雑な心のうちが巧みに表現されていることも、絵巻を紐解くもうひとつの楽しみ。
 
たとえば、物語の有名な場面のひとつ「柏木(三)」では、光源氏が正妻の女三宮の密通で生まれた赤子を複雑な心境で抱き抱える場面が描かれていますが、赤ちゃんの仕草の詳細は文章には書かれていないので、どう表現するかは絵師の腕の見せどころ。 
 
ちなみに、完成画では赤子の手は衣にくるまれていますが、絵巻の保存・修復作業で赤外線撮影したところ、赤子が光源氏に向かって片手を伸ばしている下絵が見つかり、当時の絵師が『源氏物語』をどう解釈し、絵巻にどう表現するかに心を砕き、試行錯誤していた痕跡が明らかになっています。(徳川美術館編『国宝 源氏物語絵巻』(徳川美術館、2015年))
 
金銀の箔を散らした豪華な料紙に書かれた優美な仮名文字も大きな見どころで、絵と書が一体となって物語の魅力をさらに高め、見る人を物語の世界に引き込んでくれます。
 

時代を超えた「他者」との対話を通して、「想像力」を育もう。

いま自分が生きている時代とは異なる時代の文化を学ぶことは、時代を超えた「他者」との対話。
 
光源氏ってどんな顔だったのかな。平安時代の秋の風情ってどうだったのだろう。
 
この「源氏物語絵巻」を通して、当時の人々は『源氏物語』をどのように読み、楽しんだのだろう。
 
数百年前にこの絵を描いた絵師たちは、どんな思いで筆を取り、何を伝えようとしたのだろう。
 
あれこれ思いを巡らせながら絵巻を読み進めることで、「想像力」がどんどん膨らんできます。
 
生きていく上でなくてはならない「想像力」は、マニュアルを読んで身につくものではなく、自分以外の他者の「表現」にふれて、それを理解しようとすることによって身につくのです。
 
名古屋は、城下町としての歴史を持ち、伝統や芸術に触れるのに最適な場所です。折しも2025年は、国宝「源氏物語絵巻」を所蔵する徳川美術館が開館90周年を迎える特別な年。それを記念した特別展も予定されています。

この魅力あふれる地で日本文化の奥深さを味わう絶好の機会です。
まずは徳川美術館を訪れ、「源氏物語絵巻」をはじめ、尾張徳川家に受け継がれてきた美術工芸品の数々とじっくり向き合ってみませんか?
 
武家社会に生きた人々の生活や心情に思いを馳せたり、精巧な工芸技術に目を見張ったり・・・本物を見る、本物に出会うことで、時代を超えた「他者」とつながる扉が開かれます。
 
古典を通して、時代を超えた文化を考える
それが文学部 日本語日本文化学科
 

ー 美術館・博物館に行こう! ー
金城学院大学は、徳川美術館、愛知県陶磁美術館、名古屋市博物館、名古屋市美術館とメンバーシップ契約を結んでおり、金城学院大生は、学生証を提示すれば無料で何度でも入館できます。学生の皆さんは、ぜひ活用してください。何人もの人々によって大切に守られてきた美術品や文化財が、見る人の想像力を掻き立ててくれます。

徳川美術館
※徳川美術館に隣接する「蓬左文庫」へも入館できます。
愛知県陶磁美術館
名古屋市博物館
名古屋市美術館

他参考サイト:


2013年10月掲載 『車内の金城学院大学 55限目』 はこちら


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