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作り手のこだわりや思いがあふれる<リトルプレス>

個人や団体が、制作から発行、流通まですべてを自らの手で行う<リトルプレス>。発行部数が少なく、書店との直接取引で流通するケースが多いため、限られた書店でしか手に入れることができません。だからこそ自分の感性に合う一冊と出合えたときは、格別にうれしくなるものではないでしょうか。
 
今回は、ジャンルもテーマも様々なリトルプレスを取り扱っている「本・ひとしずく」の店主・田中綾さんが、ご自身も思い入れがあるという2冊を紹介してくれました。


■『100年後 あなたも わたしも いない日に』

紙の手触り、ページをめくる喜びを味わえる

小説家の土門どもんらんと、イラストレーターの寺田マユミによる歌画集。
短歌とイラストそれぞれの表現に共通する手法「トリミング」をテーマに、様々なシーンを書き留めた短歌とそれに呼応するイラストが展開します。一部のページは小さな小窓がトリミングされ(切り取られ)、前後のページを見せる仕掛けがあり、紙の本ならではの表現の豊かさを感じられます。
 

― 短歌とイラスト、それだけでも十分心に響くものがあるのですが、本の中ページの切り抜かれた小窓が、それぞれの表現をより豊かに感じさせますね。

田中:小窓があることで変化が生まれて、ページをめくるごとに違う風景が広がりますよね。トリミングが、短歌とイラストの繊細で自由で柔らかな表現と相まって、作品の感じ方もより一層深くなります。本が外函に収まっているのも、この本の魅力。著者のこだわりが随所に感じられて、大切にページを開きたくなる1冊。みなさんもきっと手に取るよろこびを感じてもらえるのではないかと思います。
  

日常の幸せや哀しみに光を当てる、繊細な言葉たち

― 田中さんは、どのようなきっかけでこの本に出合ったのですか?

田中:この本との出合いは、私が本屋になる前でした。本屋になろうと決心して出かけていったブックイベントでこの本を知り、土門さんの言葉選びやこの本が持つ世界感に引き込まれました。
ページの大半は、短歌とそれに呼応するようなイラストが描かれているのですが、その間には、土門さんの書くことに対する想いを綴った文章や寺田さんのコマ割りイラストなども収録されています。
もともと紙だからこその良さがある本が好きだったので、自分のお店でもそういった本を届けていきたいと思っていました。お店をオープンしたらこの本を扱おうと思い、それから現在までお店に置かせてもらっています。
 
― 心に残った歌をひとつ教えてください。

「100年後 あなたもわたしもいない日に 今日とおんなじ朝陽がのぼる」

田中:土門さんの言葉選びは、一見読みやすく分かりやすいのですが、切なさや孤独感が漂っています。言葉の組み合わせがとても繊細で、一瞬で引き込まれる力があると感じます。その中でもこの歌は、当たり前に続いていく日常の中に私たちが今一緒にいることが奇跡のようなものだということを気づかせてくれる、そんな歌だと思います。
 

書籍情報:『100年後 あなたも わたしも いない日に』

『100年後 あなたも わたしも いない日に』
文:土門 蘭、絵:寺田マユミ
発行:文鳥社

■『本当にはじめての遠野物語』

これは、ここではない異界への招待状

東京から岩手県遠野市に移住した著者も、10ページで挫折した柳田国男の『遠野物語』。遠野の地域歴史研究家・大橋進先生とともに物語の舞台をめぐり、次第に『遠野物語』の世界に魅了されていった経験を基に、読み方のコツや楽しみ方を分かりやすく解説します。河童やザシキワラシなどよく知られている妖怪も登場する、ユニークな1冊です。
 
ー 『遠野物語』と聞くと、日本の民俗学を象徴する一冊ですが、同時に難解というイメージも湧きます。

田中:遠野物語が難解だというイメージは、多くの人が同じように思っているのではないでしょうか。私もずっと読んでみたいと思っていたものの、きっと難しいだろうと思って手を出せずにいました。それがSNSを通じてこのリトルプレスが発行されることを知り、これは読んでみたいと興味を持ち、すぐに版元の遠野出版から取り寄せました。
 
ー 読んでみていかがでしたか。

田中:まず、内容がとても分かりやすいのが魅力です。カラフルなイラストを見ながら想像を膨らませて、最後までワクワクしながら読みました。河童やザシキワラシ、天狗といった妖怪や神さまは、みなさんご存知ですよね。妖怪や神さまが住む異界と私たちの住む世界の境界にあるのが遠野です。『遠野物語』が発表されてから100年以上が経った今も、その場所に足を踏み入れると物語の中へ入り込めてしまうなんて、想像するだけでドキドキしますよね。

ガイドブック的な要素も満載で楽しめる

ー 初版が売り切れ、第二版からは付録として「ほんとうにはじめての遠野物語マップ」が挟み込まれているのですね。

田中:河童にまつわる場所、天狗にまつわる場所など、逸話ゆかりの場所がマッピングされていて、実際にその場をめぐることができるようになっています。遠野めぐりの旅の心得まで記されていて、私はすぐにでも遠野に出かけたくなりました。
 
ー この本を読むと、柳田国男の『遠野物語』に対するハードルがぐんと下がりますね。

田中:『本当にはじめての遠野物語』には、『遠野物語』誕生の秘密や遠野の地理のことなど周辺の情報がまとまっているので、さらに興味が湧きますよね。この本で紹介されている妖怪や神様の逸話が『遠野物語』の何話であるかも記されているので、『遠野物語』の原文で読み返す、ということもできますよ。この世とは違う世界があったとしたら、ちょっと知りたくなりませんか。この本の最後に「感じたるままに楽しもう」という言葉があるのですが、難しく構えず、まずは本を開いてみることが世界を広げてくれるのかもしれませんね。
 

書籍情報:『本当にはじめての遠野物語』

『本当にはじめての遠野物語』
著者:富川岳
発行:遠野出版

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本・ひとしずく
築100年以上の古民家を改装し、2021年にオープン。玄関の土間を活かした店内には、新刊書籍や古本、リトルプレス、雑貨がテーマごとに混在し、宝探しをするように本と出合える。「生活にひとしずくの潤いを」という想いのもとに営む店主・田中綾さんの本への愛情や人柄を慕って、通う常連客も多い。 →  詳細はこちら

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