大正時代の女性解放運動家の生涯を通して、女性の生き方を見つめ直す
決まり事や慣習、同調圧力。
私たちを縛るものに疑問を感じたとしても、意義を唱えて声を上げることは案外難しく、勇気がいるのではないでしょうか。なんとなく従っておけば波風が立ちませんし、そもそも疑問を感じるには常に問題意識を持って物事と向きあう姿勢が必要かもしれません。
言論などさまざまな自由が認められている現代でさえ、そう感じてしまうのに、今から100年前の日本で生きる女性の立場だったらどうでしょうか。
■『風よ あらしよ 劇場版』
劇場版としての編集でさらに際立った人物像
大正時代の女性解放運動家、伊藤野枝の人生を描いたNHKドラマ『風よ あらしよ』。
吉川英治文学賞を受賞した村山由佳さんの評伝小説『風よ あらしよ』を原作に、結婚制度や社会道徳に異議を申し立てた野枝の短くも激しい生涯を伝え、伊藤野枝を吉高由里子さんが演じたことでも注目を集めました。新たなシーンも追加してドラマ版とは異なる印象に編集された劇場版が、現在公開されています。
作品を上映している、ミッドランドシネマ 名古屋空港の支配人、森さんに見どころを伺いました。
― ドラマ版と劇場版ではどんな違いがありますか。
森:資料によると、「連続ドラマを127分程度に編集したため、説明過多だった部分がそぎ落とされ、野枝のわずか28年という疾風怒涛の人生模様が凝縮されて、まったく違う勢いが感じられる。不当な扱いを受け続けてきた女性の生き方や女性の叫びにフォーカスし、女性映画としての側面がより強調されている」そうです。
― 作品を通して、伊藤野枝をどんな人物だと感じましたか。
森:逆境に立ち向かっていく女性、非常にはっきりものを言う人だなという印象です。彼女のパートナーで日本を代表する無政府主義者でもある大杉栄に対しても自分の考えを伝え、時には論破してしまうような勢いさえありました。
― 野枝の考え方や行動に影響を与えたものは何だったんでしょうか。
森:特定することは難しい気がしますが、やはり教育を受けたり、自分でいろいろな本を読んで知識を深めたりしたことでしょうか。女性らしくふるまうようにしつけられ、親が決めた結婚を押し付けられた経験なども影響しているかもしれません。
家に縛られる結婚とは異なる、新しい男女の関係
― 野枝の最初の夫は、女学校の教師だった人物ですね。
森:教師と学生として出会ったこともあり、彼は野枝を〝自分が望む女性〟として育てたいと思っているように見えました。夫の実家で同居し、育児をしながら働く野枝が姑と対立することもあったようです。
― 当時は一般的だった〝家に縛られる嫁〟だったのかもしれませんね。その後、パートナーとなる大杉との関係は違ったようです。
森:そうですね。大杉が彼女の意見に影響を受ける場面もあり、お互いに刺激し合って二人三脚で生きていく、同じ志をもった〝同志〟という印象を受けました。最初の夫との結婚生活と対照的ですね。
― 森さんの印象に残った内容や場面はありましたか。
森:大杉と同様に、野枝の言葉にはっとさせられることがありました。出産などを経た野枝に、依然と違う印象を感じた大杉が何気なく放った言葉に、「女性は自分の意にそぐわずして変わらざるを得ない立場にあることを男性は理解していない!」と返したり、自由恋愛を実践する大杉に「それは男性目線の考え方に過ぎない」と反論したり。そういう見方もあるのかと、ドキッとさせられましたね。
今年もドラマで活躍、吉高由里子さんに注目
― 無政府主義者である大杉は危険な人物だったのでしょうか。
森:当時の政府からはそういった見方をされていたようですが、関東大震災の後に炊き出しをしたり、困っている人に持ち物を分け与えたり、この作品の中では人間らしさを持った人物として描かれていました。
― 野枝を演じた吉高由里子さんをはじめ、大杉栄は永山瑛太さん、野枝の最初の夫、辻潤は稲垣吾郎さんなどキャストも豪華ですね。
森:思い立ったらすぐ行動する野枝の自由闊達なところは、吉高さんに合っているかなと感じました。今年の大河ドラマで紫式部を演じているので、それと見比べてみるのも楽しめそうです。最近よく見かける、稲垣さんの〝一見いい人そうなのに実は意外と…〟という役どころもいい味出しているなと思いましたね。
今では女性の多様な生き方が認められるようになってきましたが、伊藤野枝のような人たちがいて、不条理なことには不条理だと発言し、困っている人に寄り添ってきた歴史があるからなのかと感じました。不寛容や分断が引き起こす出来事が多い今、あらためて見ておきたい作品でもあると思います。
『風よ あらしよ 劇場版』の予告編はこちら
ミッドランドスクエア シネマ 劇場情報
名古屋駅前に14スクリーン、全席ソフトレザー張りの2,205席を備える都市型シネマコンプレックス。メジャー作品はもちろん、アートレーベルやアニメレーベルも設けて、コアなファン向けの作品もカバーする。
ミッドランドシネマ 名古屋空港 劇場情報
県営名古屋空港に隣接する、エアポートウォーク名古屋内のシネマコンプレックス。ソフトレザーシートを配した12スクリーンを備え、バラエティに富んだ作品ラインナップとスタッフ手作りのPOPも魅力。
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