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観る者の感情を揺さぶる、人間の内面を見事に捉えたリアルな人物描写

出資者に内容を問われることなく制作者が本当に作りたいものを描く、インディペンデント映画。いわゆる自主制作映画とは異なり、プロフェッショナルな仕事として完成された作品には、時代を超えて観客を引き付ける魅力や熱量があります。

今月、名古屋市内のミニシアターで公開される作品から、〝インディペンデント映画の父〟と称されるジョン・カサヴェテス監督の特集上映企画をご紹介します。
 
また後半では、7月28日で閉館される名古屋シネマテークさんに、長年大切にされてきたことや、映画館で映画を観る楽しみなどについてお話を伺いました。


■ 『ジョン・カサヴェテス レトロスペクティブ リプリーズ』

『アメリカの影』 (c)1958 Gena Enterprises.

ジャン=リュック・ゴダール、マーティン・スコセッシ、ヴィム・ヴェンダースなど世界の巨匠から敬愛されたアメリカの映画監督、ジョン・カサヴェテス。1989年に亡くなった彼が残した監督作品の中から、代表作6本を上映する企画が『ジョン・カサヴェテス レトロスペクティブ リプリーズ』です。

愛され続ける作品の魅力をはじめ、インディペンデント映画とは何かといった基本的な情報まで、作品を上映する名古屋シネマテークの支配人、永吉さんに伺いました。
  

映画俳優として活躍し、制作も手がけた
ジョン・カサヴェテス監督

『こわれゆく女』 (c)1974 Faces International Films,Inc.

― ジョン・カサヴェテス監督について、紹介して頂けますか。

永吉:監督である以前に映画俳優としても活躍し、『ローズマリーの赤ちゃん』『特攻大作戦』などに出演しています。主役は多くありませんが、映画に厚みを出してくれるわき役の一人です。それと並行して俳優仲間と舞台や映画を制作していて、俳優として出演した作品はメジャーな作品が多いですが、監督として制作したのはほぼインディペンデント映画ですね。
 
― インディペンデント映画とはどういった作品でしょうか。

永吉:コロンビアやユニバーサルなど、ハリウッドのメジャーな撮影所がありますよね。そこで制作される映画は社長やプロデューサーが決定権を持ち、出資者を募って監督や俳優を雇い、上映まで管理している作品です。それに対して、インディペンデント映画では出資者から内容を問われることがなく、作り手が制作の自由を握っています。自主映画と同じイメージで捉えられがちですが、プロフェッショナルな仕事として成立しているので、アマチュアが作る映画とは異なります。
 
― 作品の特徴や魅力について聞かせてください。

永吉:リアリティではないでしょうか。今回上映する作品の中に心が不安定な状態のキャラクターが出てきますが、そういった不安定さをドラマの中でいかにリアリティを持たせるかというのが彼らのやっていたことです。人物描写や内面描写を作りものではなく、リアルなものとしてドラマを作る、演じるというところが魅力的だと思います。
 

不安定な女性の心理に共感できる作品も

『オープニング・ナイト』(c)1977 Faces Distribution Corporation

― 特に女性におすすめの作品はありますか?

永吉:ジーナ・ローランズが主演の作品がほとんどですので、どれも女性におすすめできる作品かと思いますが、なかでも『オープニング・ナイト』は、わかりやすい作品かもしれません。やや老いを感じつつある舞台女優が主人公で、うまくいかなくなったことに対して過剰に反応するなど、いわゆるアイデンティティクライシスを起こしている状態の女性を描いた作品です。

― 『オープニング・ナイト』は、老いを自覚し始めた人が感じる焦燥感や不安を描いた作品だそうですね。

永吉:
若い人たちにはあまりリアルに感じられないかもしれませんが、ある年齢に達していて、自分がこれまでと少し違うなと感じ始めている方にとっては、特に共感できる内容かと思います。カサヴェテス作品の中で唯一、夫婦役として共演している点も注目です。
 
― 女優ジーナ・ローランズは、カサヴェテスの公私ともにパートナーであるそうですね。ジーナ・ローランズの魅力とは?

永吉:圧倒的な存在感かなと思います。いわゆるハリウッドの美人女優ではなく、ちょっとファニーな顔立ちで個性的な女優さんです。監督の妻でもあるのでお互いに信頼感があり、魅力を引き出せたということもあるでしょう。
 
― 他に、おすすめの映画はありますか。

永吉:
『ラブ・ストリームス』でしょうか。ほかの5作品は3年前にも当館で上映したのですが、こちらは上映できなかったので今回は見ておきたいという人もいるのではと思います。

カサヴェテスの作品は90年代に集中的に上映されて再評価を受け、近年でも数年に一度、特集上映されています。繰り返し見たくなる魅力的な作品ばかりですので、まだ見たことがない方はぜひこの機会にご覧頂きたいですね。
 

『ジョン・カサヴェテス レトロスペクティブ リプリーズ』は2023年7月14日(金)まで、名古屋シネマテークで上映中。

『ジョン・カサヴェテス レトロスペクティブ リプリーズ』
予告編はこちら

 

■ 名古屋の映画文化をけん引してきたシネマテーク

見てもらう意味のある映画がある

これまでさまざまな映画をご紹介頂いた名古屋シネマテークさんが、7月28日で閉館されます。1982年の開館以来、良質な作品を上映するミニシアターとして、多くの映画ファンをはじめ映画関係者からも支持されてきました。閉館にあたり、長年大切にされてきたことや、映画館で映画を観る楽しみなどについてお話を伺いました。
 
― シネマテークさんで上映される作品に注目し、楽しみにしてきた方も多いと思います。作品のラインナップなどで心がけてきたことはありますか。

永吉:82年に開館する前は移動上映をしていて、その当時は質の高い映画、名古屋で上映されないような映画、ドキュメンタリー映画が主題でしたので、開館当初からそれを中心にしてきたと思います。商業的でない芸術映画を上映する機会を増やしたいということだったかと。
当館としては〝見てもらう意味のある映画〟というものがあると思って続けてきました。
  

ミニシアターは出会いや発見がある場所

― 最近は配信など、映画館以外でも映画を観ることができます。あらためて、映画館というのはどういう場所だと思われますか。

永吉:映画館では知らない人同士が大勢集まって、同じタイミングで映画を観ます。どう感じているかを口には出しませんが、面白かったら笑い声をあげたり、つまらなく感じたらごそごそする人や寝てしまう人がいたりしますよね。そういう自分以外の要素があると集中できないと嫌う人もいますが、私はそういうことが起きた方が楽しいし、そこに映画館で観る意味があると思っています。

― 読者のみなさんに向けて、映画の楽しみ方についてメッセージをお願いします。

永吉:個人的な意見になりますが、映画館に自分が知っていることを確認しに行くのはあまり面白いことではないと思っています。できれば、知らなかったことを見つけたり、初めて見ることを楽しんでみたりしてはどうでしょうか。これまで縁がなかったことでも体験してみたら意外と面白かった、理解できたと感じることがありますよね。ミニシアターには、そんな発見や出会いがいっぱいです。未知の世界や出来事について知ったり、身近に感じたりすることができる場所であってほしいと思っています。
 

名古屋シネマテーク劇場情報

名古屋シネマテーク
1982年に設立された、名古屋・今池のミニシアター。邦・洋画を問わず、ロードショー公開から監督特集などの企画ものまでバラエティーに富んだラインナップで、シネコンでは出会えない良質の作品を多く上映してきた。2023年7月28日をもって閉館。

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