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それぞれの国の歴史や文化が見える、学びの場や児童書の誕生ストーリー

世界各国で制作される映画には、舞台となった国や制作者のバックグラウンドを色濃く感じさせるものが少なくありません。
作品の中にさまざまな形で投影される歴史や文化などが見る人の好奇心をかきたて、より深く知りたいと思わせることも多いでしょう。

今月、名古屋市内のミニシアターで公開される作品から、ヨーロッパを舞台にした2本の作品をご紹介します。
 


■ 『ぼくたちの哲学教室』

生き方や考え方、新しい価値観を学ぶ

© Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d’oeil films, Zadig Productions,MMXXI

『ぼくたちの哲学教室』は、北アイルランド・ベルファストにあるカトリック系の男子小学校を舞台にしたドキュメンタリー作品。

この学校では「哲学」が主要科目になっています。威厳と愛嬌を兼ね備えたケヴィン校長を中心とした先生たちは対話を通して、子どもたち自身が思考を整理し、言葉にすることを促します。
それは、宗教的、政治的対立が長く続いた歴史を持つ街で、これからも平和を維持していくために導き出した一つの方法でした。

作品を上映する名古屋シネマテークの支配人、永吉さんに見どころを伺いました。

© Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d’oeil films, Zadig Productions,MMXXI

― 予告編を見ると、あどけなくてかわいらしい様子の子どもたちが出てきますね。

永吉:そうですね、4歳から11歳が通う学校ですが、この映画では小学校低学年くらいの子たちが中心に登場しています。みんな素直でいい子たちという印象です。
 
― 彼らにとって「哲学」は難しそうですが。

永吉:哲学といっても、プラトンやアリストテレスなどの思想を学ぶわけではなくて、新しい価値観を学んでみようということだと思います。ここでの哲学教室は、生き方や考え方をかみ砕いてわかりやすく子どもたちに伝えるという趣旨ではないでしょうか。
  

対話を通して子どもたち自身が考える

© Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d’oeil films, Zadig Productions,MMXXI

― 授業の中で印象的な教えなどはありましたか?

永吉:先生が一方的に教えるのではなく、コミュニケーションをとるスタイルで授業が行われていることですね。先生が先回りして正しいとか正しくないとか伝えるのではなく、先生が提示したことについて子どもたち自身で考えてみるというやり方です。
 
― 子どもたちには学びによる変化が見られましたか?

永吉:変化が表れるまでにはやはり時間かかりますよね…。作品の中で、子どもたちにいさかいが起きるのですが、それも授業での学びの題材にするという場面がありました。そういった繰り返しを続けることで、考える姿勢が身についていく。それが大切なのではないでしょうか。
  

負の連鎖を断ち切るための試み

© Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d’oeil films, Zadig Productions,MMXXI

― ベルファストで長く続いてきた北アイルランド問題。イギリスとの統合を支持するプロテスタントと、イギリスから分離してアイルランドへの合併を主張するカトリックの対立ですね。

永吉:プロテスタントとカトリックが対立する北アイルランド問題の歴史は古く、特に1960年代後半から1990年代の終わりまではかなり激化していました。このあたりは昨年公開されたケネス・ブラナー監督の自伝的な映画『ベルファスト』でも、わかりやすく描かれています。

 ― この映画で北アイルランド問題に関心を持った方は、そちらも見ると参考になりそうですね。現在は落ち着いているけれど、紛争の記憶が残る状態ということでしょうか。

永吉:そうですね、先生はまさに紛争の時代を経験した人たちですし、街にも〝平和の壁〟と呼ばれる分離壁がいまだに存在し、争いの痕跡は残っています。そんな歴史や現状をまだよく理解していない子どもたちへの哲学教室は、繰り返される負の連鎖をどこかで変えなくてはという考えに基づいた働きかけの一つではないでしょうか。
この映画は文部科学省特別選定で、少年向き、青年向き、成人向き、家庭向きとすべての領域で対象となっています。幅広い方におすすめできる内容ですし、楽しみながら教育や子育てなどの気づきも得られる作品だと思います。
  

『ぼくたちの哲学教室』は、2023年5月27日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開、名古屋シネマテークでは6月17日(土)から上映予定。

『ぼくたちの哲学教室』の予告編はこちら

 配給:doodler

■ 『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』

フランスで愛され続ける児童書の誕生秘話

© 2009 Fidelite Films - IMAV Editions - Wild Bunch - M6 Films - Mandarin Films - Scope Pictures - Fidelite Studios

フランスで50年以上愛される児童書「プチ・ニコラ」。いたずら好きの小学生とクラスメートの日常を描いた作品は世界30か国で翻訳され、多くの人に愛されています。そんなロングセラーの誕生秘話と2人の原作者の人生を描いたアニメーションが『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』です。
  

© 2009 Fidelite Films - IMAV Editions - Wild Bunch - M6 Films - Mandarin Films - Scope Pictures - Fidelite Studios

― 「プチ・ニコラ」はフランス生まれの児童書ですね。

永吉:子ども向けのマンガと言ってもいいのかな。フランスのマンガ〝バンド・デシネ〟は日本のマンガとは少し違っていて、絵本のように彩色されていたり大判だったりするものが多いですね。
 
― 原作者のイラストレーターと作家が作品を生み出すまでを描いているのでしょうか。

永吉:パリの街を舞台に2人の出会いから別れまでが描かれていて、その中に「プチ・ニコラ」のキャラクターやお話も登場してきます。「プチ・ニコラ」のキャラクターの造形に影響を与えた、2人の少年時代のエピソードにもふれていますね。2人は戦争を経験した世代で、戦前のヨーロッパが華やかだった時代もちょっとノスタルジックに盛り込まれています。
  

やわらかな水彩画のようなアニメーション

© 2009 Fidelite Films - IMAV Editions - Wild Bunch - M6 Films - Mandarin Films - Scope Pictures - Fidelite Studios

― 日本のアニメーションとはタッチなどが少し異なる印象ですね。

永吉:やわらかな線や色合いがヨーロッパのアニメーションらしいですね。はっきりした線が特徴の日本のアニメとは違って、水彩画やパステル画っぽい印象です。音楽もスイングジャズみたいな雰囲気で、1920~30年代のヨーロッパの雰囲気が感じられます。
 
― ほのぼのとしたやさしい気分の作品でしょうか。
永吉:全体的にはそういうお話ですが、ニコラのかなり茶目っ気のあるいたずらも出てきますので、そこも楽しみにしてください。
 

『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』名古屋シネマテークにて、6月17日から上映予定。

『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』の予告編はこちら


名古屋シネマテーク劇場情報

名古屋シネマテーク
1982年に設立された、名古屋・今池のミニシアター。邦・洋画を問わず、ロードショー公開から監督特集などの企画ものまでバラエティーに富んだラインナップで、シネコンでは出会えない良質の作品を多く上映する。

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