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溢れる想いが綴られた「手紙」がつなぐ物語

スマートフォンに、メール。
あえて手紙を選ばなくとも、伝えるためのツールはたくさんあります。

それでも、便せんと封筒を選び、離れた場所にいる人に思いをせながら、ペンを走らせる。そこには特別な想いがあるように思います。
 
そこで今回は、手紙にちなんだ物語を、岐阜県多治見市の「ひらく書店東文堂本店」店長の木野村直美さんに選んでいただきました。
自分も誰かに宛てて書いてみたくなる、そんな2冊をご紹介します。


■『ださないてがみ』

大切な人には、手紙を書きたくなる

LINEスタンプクリエーターやイラストレーターとしても活躍している著者が手がけた初めての絵本。

元気のないうさぎのロイと、その様子を心配しているねこのムウ。ある日ロイからムウへ届いた1通の手紙をきっかけに、それまでの日々に変化が訪れます。心温まるストーリーを通して、相手を思う気持ちはいつかきっと伝わると感じさせてくれる1冊です。
 
― まず今回「手紙」というテーマで選書をお願いしましたが、木野村さんにとって「手紙」とはどういうものですか。

木野村:手紙って、文字や文章として完成されている必要がないものですよね。とくに手書きの場合は、文字の書き方ひとつをとっても十人十色。その人らしさが表れるものです。手紙の文字を目で追いかけているうちに、相手の声や表情まで頭に浮かぶような経験は、誰しもあるのではないでしょうか。
  

手間をかけるほど、伝わる思いは比例する

― 例えば、年賀状の端に添えられたひと言も、手書きだと印象が随分違います。

木野村:手書きには、その人ならではの「味」が表れるものですよね。便せんや封筒に残ったインクの汚れや小さな破れなどの痕跡も、デジタルなコミュニケーションツールにはないものです。ほかにも途中で筆圧が強くなったり、後半は疲れてきたのか字が乱れていたり、「もしかして泣いて書いていたのかも」と想像してしまうような文字のにじみを見つけたり。隠そうとしても表れてしまうものがある。それが手紙の持つ最大の魅力だと思います。
  

深読みも楽しい、シンプルな言葉と絵

―「ださないてがみ」の主人公、ねこのムウも、ある日を境に会えなくなった友だちのうさぎに手紙を書き始めますね。

木野村:最初の1通は出したのに、次からは「ださない」と決めてしまいました。出さない手紙は山のよう。私は、もしかするとうさぎのロイに宛てた手紙以外のものが、この手紙の山に入っているのでは…と深読みしています。ぜひ、皆さんにも想像してもらいたいです。本の中の単語ひとつ、文章ひとつ、挿絵ひとつにまで注目してみると、わずかな時間で読むことのできる絵本も味わい深く豊かな読み方ができるのですよ。
 
― ほかにも木野村さんが思う、この物語の魅力を聞かせてください。

木野村:「相手を想う気持ち」が、とにかくシンプルに描かれています。優しさや思いやりについて、多くの言葉で語られると「うるさい」と感じてしまいませんか。本来なら語られるだろう言葉を最小限にして、解釈の余白を残して読み手に任せてくれている。絵も控えめだけれど十分に伝わるものがある。だから、素直に感動できるのだと思います。
  

書籍データ:『ださいないてがみ』

『ださいないてがみ』
著:みあ
発行:モモンガプレス

■『水曜日の手紙』

2通の手紙が、運命を好転させていく奇跡の物語

水曜日の出来事を綴った手紙を送ると見知らぬ誰かの水曜日が届くという「水曜日郵便局」。

そこに送られた2通の手紙が、関わる人々の未来を少しずつ変えていく感動作。宮城県東松島市に実在した「鮫ヶ浦さめがうら水曜日郵便局」をモチーフにしたフィクションとしても話題になりました。
 

― 世代も置かれた状況も違う二人が、水曜日郵便局に手紙を書くところから物語が始まりますね。

木野村:職場や義父母とのストレスに悩む主婦の直美と、絵本作家になる夢を諦めて人生を迷っている洋輝。その二人が書いた手紙が、本人たちはもちろん、関わった人たちの人生までも変えていくお話です。偶然と優しさが物語を動かしていく展開が魅力です。
 
― 著者の森沢さんは執筆前、当時は開局していた「鮫ヶ浦水曜日郵便局」に取材に出かけたそうですね。

木野村:取材時は随分寒かったようですね。あとがきによると「小説の世界と実際は色々違う」とのことですが、いつか実際に訪れてみたいと思っています。 風光明媚ふうこうめいびな景色がそれは魅力的に描かれているので、実際に確かめてみたいです。
 

うまく伝えられない気持ちも、手紙は受け止めてくれる

― 登場人物が水曜郵便局宛ての手紙を書くシーンにも、引き込まれるものがありました。

木野村:静かな夜の部屋で手紙を書こうとする登場人物の姿は、手紙の内容とともに丁寧に描かれていますよね。それぞれが迷いながら書き始めるところや、次第にペンを持つ手に力が入る様子には、こちらも力が入ります。誰かに向けて書いているのに自問自答になったり、相手へ向けたはずの言葉が自分自身へのエールになっていく。手紙を書く目的は伝えることがすべてではないのだと感じました。
 
― 直美と洋輝が書いた手紙のあて先は、知らない誰かとほかでもない自分自身だったのかもしれませんね。

木野村:そうですね。私も昔、手紙を書きました。ケンカをした友だちに謝る手紙です。読み返してみると言い訳がましいような気がして、また続きを書き、かなりの長文になった記憶があります。彼女は「読むだけで疲れちゃったわ」と笑っていました。今思えば、とても稚拙な文章だったと思うのです。でも、彼女は気持ちを受け取ってくれました。素直な気持ちを文章にして伝えることができる手紙の魅力を、この本を通して改めて感じてもらえたらうれしいです。
  

書籍データ:『水曜日の手紙』

『水曜日の手紙』
著:森沢明夫
発行:角川文庫

岐阜県多治見市にある
「ひらく本屋 東文堂本店」の情報はこちら

ひらく本屋 東文堂本店
創業120余年の歴史を有し、学校図書の販売も手掛ける地域密着の老舗書店。現在は、JR多治見駅から徒歩5分のながせ商店街にあるレトロな複合施設「ヒラクビル」内に本店を構える。本の持ち込みOKのカフェ「喫茶わに」も併設され、こだわりの珈琲とスイーツを楽しみながら読書を楽しむこともできる。

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