絵本や文学でも愛される、チョコレートの奥深い魅力を味わう
口の中でとろりと溶けて広がる甘さや、その奥に潜むほろ苦さ。
趣向を凝らしたさまざまな色や形でも私たちを魅了する、チョコレート。
毎年2月のバレンタインデーにかけては、世界の名店が集まるイベントも催されるなど、日本中でさらに人気が高まります。お気に入りのチョコレートを味わいながら、その産地や歴史、世界中で愛される理由などに思いをはせてみませんか。
三重県伊勢市の書店「散策舎」代表の加藤優さんに、読んだら思わずチョコレートが恋しくなるような2冊を紹介して頂きました。
■『ひと粒のチョコレートに』
チョコレートの歴史や製法を専門家が解説
私たちが慣れ親しんでいるおいしいチョコレートが誕生するまでには長い歴史があり、そこには驚くような技術が詰まっています。
かわいらしく緻密な挿絵とともに、それを丁寧に紐解いているのが、2023年10月に発行された絵本『ひと粒のチョコレートに』です。じっくりと味わいたいたくさんの挿絵に彩られ、文章も読みごたえがあるので、子どもも大人も満足できる内容です。
― 〝チョコレートの本〟としてまずこちらを挙げて頂きました。
加藤:最近出版されたばかりで印象に残っていましたし、装丁や絵が素敵だなと、私自身も魅力を感じていましたので。文章はチョコレートの歴史や製法などをかなり詳しく伝えていて、実は食品物理学の専門家が書かれているんですよ。
― 板チョコの包装がめくれて中身が見えているような、遊び心のある装丁ですね。
加藤:とてもおしゃれで思わず手に取りたくなりますよね。元々は福音館書店が出版している子ども向けの科学雑誌『たくさんのふしぎ』の一冊だそうです。そこで人気が高かったので挿絵の追加や装丁のバージョンアップを行い、ハードカバーとして発売されたようです。
魔法のようなおいしさを伝える挿絵も魅力
― junaidaさんの挿絵がすべてのページにあり、見ていて楽しいです。
加藤:王様のような子どものキャラクターがちょこちょこ出てきて、かわいいですよね。それだけではなく、チョコレートの口どけについて伝えるページでは、分解される分子の様子を絵で表現するなど、挿絵によってよりわかりやすくなっているとも感じます。
― junaidaさん自身で絵本も制作されているんですね。
加藤:そうですね。わりと緻密な絵を描かれる方で絵本も何冊かあり、当店でも取り扱っています。今回の絵本では、チョコレートの歴史や製法はノンフィクションですが、チョコレートのおいしさってどこか魔法のようなところがありますよね。junaidaさんのファンタジックな絵と、チョコレートの魅力がよく合っているなとも思いました。
書籍データ:『ひと粒のチョコレートに』
■『チョコレート・アンダーグラウンド』
コミックやアニメも制作された人気の小説
「健全健康党」がチョコレート禁止法を発令し、国中から甘いものが処分されていく。そんな法律に疑問を抱いた2人の少年は、なじみの店のおばさんとともにチョコレートを密造して抵抗を始める―。
イギリスの人気作家アレックス・シアラーによるファンタジー小説『bootleg』は世界中で人気を集め、日本でも『チョコレート・アンダーグラウンド』という題名で2004年に発行。幅広い層に支持され、コミックや劇場用アニメーションも制作されています。
― 発行から20年、読み続けられている理由はどこにあるでしょうか。
加藤:児童書としてはかなり分厚いですが、元々BBCのドラマとして制作されたこともあって、その構成と関係しているのか、比較的わかりやすい章立てになっています。章の中にも起承転結があって読みやすいですね。
― 禁止されたものはチョコレートなどの甘いものとはいえ、少年たちの活動や取り締まりなど、内容はなかなかハードですよね。
加藤:そうなんですよね。子どもたちは地下に潜って密造するとか、捕まると再教育施設へ送られるとか…。そんな重たい展開がありながらも、「おれはチョコレートが食べたいんだ!」という欲求など、子どもたちの行動原理がシンプルで純粋なところには児童書らしさがあって、ほっとしますね。
読み方によってはディストピア小説にも
― 禁止されるものがチョコレート以外のもの、例えば〝自由〟だったら…という読み方もできますね。
加藤:大人はそういった読み方もしたくなりそうです。自由を奪われて…という設定なら、まさにディストピア小説の世界観になりますね。この小説の中に出てくる大人も、大人らしいやり方で抵抗する人や無関心な人がいて、結構リアルです。
― チョコレートは子どもにとってあきらめたくないものですよね。大人はチョコレートならあきらめられるけど、他のものだったらどう?と問いかけられているようです。
加藤:〝子どもにとって〟と言われたところが、結構大事なのかなと思っています。子どもから大人になるにつれて、世の中のことが理解できるようになると、自分の一番大事な気持ちをあきらめてしまうことってありますよね。そうなってしまう前の子どもの良さがいろいろと出てくるのがこの小説のよさでもあるのかなと感じています。
― イギリスらしいウィットを含んだ表現も多く感じられますね。
加藤:私はそこも結構好きなんですよね。子ども向けの小説なのにちょっと斜に構えていて、それでいてすごく本質をついていると感じます。
今回ご紹介した2冊はどちらも元々は子どもが対象ですが、大人が読んでも楽しかったり気づきがあったり、という点が共通していますね。
書籍データ:『チョコレート・アンダーグラウンド』
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散策舎
伊勢神宮 外宮前のレトロなビルにある、小さな新刊書店。深い蒼緑で彩られた空間に「心・食・旅」のテーマに沿って選んだ3000冊の本が揃う。散策するように、日々を確かに歩むための心と身体の糧となる本との出会いを楽しむことができる。
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