「自分らしく働きたい」と思う人へ
例えば、1日8時間。働く時間は、人生の多くの部分を占めています。働くことは、生きること。そう感じるからこそ、望まない仕事に耐えるのではなく理想とする仕事や働き方を見つけたいと、人は願うのではないでしょうか。
そこで、「働き方」や「仕事」をテーマに、愛知県瀬戸市の「本・ひとしずく」の店主、田中綾さんにおすすめの本を選んでいただきました。自分に合った仕事や働き方について考えるヒントをぜひ、見つけてみてください。
■ 『“好き”を仕事にする力 スモールビジネスを立ち上げた100人の女性たちのリアル』
本音も苦労も包み隠さず綴った、インタビュー集
年齢も住む町もバックグラウンドも業種もさまざま。好きなこと、やりたいことで起業した100人の女性へのインタビューをまとめた本。自分の好きな道を追求し続ける100人が、どんな働き方をし、継続するためにどんな努力をしているのかなど、誰もが聞きたくなる質問を押さえた充実の内容です。
雇われない働き方を目指す人にはもちろん、そうでなくてもマネしたいマインドが見つかります。
田中さんご自身も“好きを仕事にした女性”の一人
― 田中さんも書店を立ち上げ、経営をされていますが、本書のどんなところが魅力ですか。
田中:「“好き”を仕事にする」というのは、まさに私自身が目指している働き方です。本には100人もの女性へのインタビューがまとめられているのですが、それぞれがさまざまなきっかけで自分の働き方を見つけてきたことがわかります。詳細なインタビューも載っているので、これから「好きを仕事にする」ことを考える人にとって、とても参考になると思います。
― 田中さんの起業のきっかけはどんなことだったのですか。
田中:40歳の頃に「人生の半分まで来てしまった」と気がついたんです。子どもが生まれる前は、インテリアコーディネーターとして働いていましたが、出産と同時に専業主婦になって家事と子育てに追われていました。子どもの手が少し離れた時にハッとしたんです。「このまま私、何者でもないまま、何もしないまま、人生終わるのかな…」と。「何か自分のやりたいことをしなければ!」という想いに駆られて動き出しました。
― 「本・ひとしずく」が生まれるきっかけですね。
田中:小さなころから本を読むのが好きでした。子どもの手が少し離れた頃から再開した読書に、たくさんの潤いをもらったことや、読んだ本の話をする場所が欲しかったこと。そんな想いが重なって、私の「お店」は「書店」だと気がつきました。人と話をすることも好きなので、本を介して人と人をつなぐことのできる場所を作り、お客様の日々の生活にひとしずくの潤いを連れて帰ってほしい。そんな思いでこの店を立ち上げました。
好きなことを仕事にしたい人へのエールも掲載
― それぞれのインタビューの中に「起業して大変なこと」という質問があるように、好きなことが仕事であっても楽しいばかりとはいきませんよね。
田中:そうですね。だからこそ、「楽しいことしかしない」「読みたい本しか仕入れない」と、わたしは決めています。そこがぶれてしまったら、「本・ひとしずく」ではなくなっていくと思っているからです。
― なるほど。もうひとつお聞きしたいです。本書のインタビューにあった「生きる上で大切にしていることは何ですか」という質問です。
田中:食べること。嘘をつかないこと。このふたつです。
書籍データ:『“好き”を仕事にする力 スモールビジネスを立ち上げた100人の女性たちのリアル』
■『常識のない喫茶店』
客に出禁を言い渡す喫茶店での日々を描く
「働いている人が嫌な気持ちになる人はお客様ではない」という理念を掲げ、セクハラやパワハラ、理不尽なクレームと徹底的に戦い、失礼な客には容赦なく「出禁」を言い渡す。実在の喫茶店でアルバイトをはじめた著者が、日々起こる出来事を綴ったエッセイ。「NHK FM」でのラジオドラマ化されるなど、多方面から注目を集める1冊です。
― このエッセイの舞台となる喫茶店は、非常識な客が来れば容赦なく追い払う。確かに筋は通っていますが、最初はとても異質に感じながら読み進めました。
田中:「お客様は神様です」ではないですが、そのような社会の風潮がある中で、働く人とお客さんを上下関係にしないこの喫茶店って面白いですよね。タイトルには「常識のない」とありますが、本来はこれがあるべき姿なのではないかと思いました。
― 問題のある客と著者とのやりとりが緊迫感に満ちていますよね。別の客席に自分が座って手に汗握って見守っているような、そんな気分になりました。
田中:とくに接客業の方は共感されていましたね。「この本おもしろい!」と購入して、ご自分の店に置いて下さった方もいます。「お客様」に対する仕事をされている方には、どなたにも響くエッセイなんだなと思いました。
歯に衣着せない語り口が痛快に響く
― 読者がドキリとするような辛辣な表現もありますが、それが多くの読者の心のうちを代弁しているのかもしれませんね。
田中:「言いたいことはあるけど、言うと雰囲気が悪くなるかな」「こういうことは言わない方がいいかな」などと考えてしまって、言いたいことを言わずおくことってありませんか。自分が我慢すればすむ。そう思う人は多いと思います。私もそうです。だからこうやって、自分の考えや言いたいことを堂々と表現している人に出会うと、スカッとするんだなと思います。スカッとしたい人が多いから、この本は人気があるんだと思います。
― 店を卒業した著者が自身の変化について綴った最終章「人生のわかれ道」も、心に刺さるものがありますね。自分自身も働く人にとって良い客でありたいなと思いました。
田中:年をとればとるほど「そういうものだ」という刷り込みや思い込みに支配されていくものですよね。この本を読んで「そういうフラットな考え方があるんだ、それでもいいんだ」と気づかされました。だから、本って面白いなと思います。
書籍データ:『常識のない喫茶店』
愛知県瀬戸市にある「本・ひとしずく」の情報はこちら
本・ひとしずく
築100年以上の古民家を改装し、2021年にオープン。玄関の土間を活かした店内には、新刊書籍や古本、リトルプレス、雑貨がテーマごとに混在し、宝探しをするように本と出合える。「生活にひとしずくの潤いを」という想いのもとに営む店主・田中綾さんの本への愛情や人柄を慕って、通う常連客も多い。
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