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富加町を学びのフィールドに、自ら課題を見つけ、解決策を探る。

2023年7月、金城学院大学と岐阜県富加町が包括的連携協定を締結。女性総合大学として若者や女性の活躍を支援する本学と、次世代に向けたまちづくりをめざす富加町が協力することで、お互いの持続的発展をめざしていきます。

そこで、この「富加町プロジェクト」の一員として活動する石川瑞穂さんと磯山留愛さん(共に生活環境学部/環境デザイン学科4年生)に、地域連携活動にどう向き合っているのか、やりがいと課題、将来の夢などを聞きました。


地域と連携してさまざまな課題に取り組む「富加町プロジェクト」。

富加町の「魅力発掘フィールドワーク」。

― 「富加町プロジェクト」の活動に参加しようと思ったきっかけはなんですか?
 
石川:昨年、富加町プロジェクトのひとつ、「魅力発掘フィールドワーク」に参加して、地域連携活動に興味を持ったこと。チームに分かれて町内のあちこちを視察し、その後、若者にとって魅力あるまちづくりとは何かを役場の方たちと意見交換をしたのですが、すごく有意義な時間でした。私は碧南出身で自宅通学なので、地元周辺から外へ出る機会があまりなかったのですが、このフィールドワークを通して「いろんなところにいろんなまちがあって、いろんな暮らしがあるんだな」ということを実感して、まちづくりに興味が湧いてきました。
 
磯山:私にはずっと抱いている夢があります。それは、大学を卒業したら地元の公務員、あるいは地元企業に就職し、地元をもっと魅力的なまちにしたい、ということ。私が生まれ育ったのは知多郡の阿久比町で、すごく田舎なんですが、でも良さがいっぱいあって、そこが富加町に似ているなと思いました。富加町プロジェクトに参加し、活動をすることで、“地域の資源を活かしたまちづくり”の知識と技術を実践的に身につけ、将来に活かしたいと思っています。
 

役場職員との意見交換会

― 富加町はどんなまちなのですか。
 
石川:富加町は、岐阜県の中南部にある人口約5,800人の小さな町で、金城学院大学のある名古屋市守山区からは車で1時間ほどの位置にあります。かつては若者の流出や高齢化が進み、2014 年には日本創成会議が公表した「消滅可能性都市」に位置づけられていました。危機感を感じた町は次世代に向けたまちづくりを積極的に進め、その結果、近年は岐阜県内でも有数の人口増加率を達成。2024年4月に人口戦略会議より公表されたレポートでは、「消滅可能性自治体」からの脱却を果たしています。
 
磯山:私たちのゼミの担当教授である長谷川直樹先生が、2015年から富加町の地方創生アドバイザーを務めていたご縁で、昨年の7月に同町と包括連携協定を結んだのですが、すでに複数のプロジェクトを展開しています。先ほどご紹介した「魅力発掘フィールドワーク」の他にも、アパレル・ファッションコースの学生が、富加町のキャラクターを活用した「とみぱんTシャツプロジェクト」を展開。食環境栄養学科の学生は、富加町の農産物を使った特産品の試作品試食会に参加したり、食材を無駄なく使い切る「エコレシピ」を考案するなど、幅広い分野で連携・協力をしています。
 

卒業制作で、富加町の「若者定住促進案」を提案する。

ゼミの長谷川直樹先生と。

― 二人がいま取り組んでいる卒業研究も、富加町プロジェクトの一環ですね。
 
磯山:はい。富加町との協定締結後の第1弾として、長谷川ゼミの先輩2人(2023年卒業)が「若者や女性の定住政策」を卒業研究の題材にして、さまざまな政策を提案しました。私たちはその卒業研究を引き継ぎ、さらに発展させていこうと、先輩たちが提案した政策を実現するための具体的な施策の検討・立案に取り組んでいます。
 
石川:先輩方の論文には、「どんな施策が町の魅力を高め、若者の定住促進に効果があるのか」という視点で本学の学生100人に実施したアンケート結果があり、そこには、「田舎に住みたい」、「自然のあるところに住みたい」という回答が多数ありました。そこに着目して考えたのが、富加町の豊かな自然や美しい景観を守り、残していくための「景観計画の作成」です。
 
磯山:活動を始める前は、「富加町は交通の便が悪いし、車で行くにも遠いし、すごく田舎の町」と聞いていたのですが、実際に足を運んでみると、豊かな自然もあれば、若い女性が好みそうなカフェやお店、資料館もある。道路も舗装されていて、ツーリングを楽しんでいる若者もいました。富加町の住民にとってはあたり前にある風景、たとえば美しい山並みとか川のせせらぎは、外から来た私たちとってはすごく魅力に感じます。現在、町には自然や景観を保全するための条例や計画がないので、じゃあ、私たちが作ろうと。屋外広告物の規制や建物の高さや素材など、他の市町村の景観計画を参考にしながら、具体的に提案したいと考えています。
 
石川:ただ、富加町には名だたる文化遺産とか雄大な自然があるというわけではないので、あくまでも富加町がいま持っている良さ、魅力を生かした計画を作りたいと思っています。
 
磯山:アンケート結果で、若い女性は「無農薬の野菜」や「美味しい野菜」にも興味があることがわかったので、そういった若い女性の声を農業に生かしていく提案もしていきたいと思っています。カフェやショップなどもホームページやインスタで上手にアピールすれば、若い人たちがもっと来てくれるんじゃないかと思います。
  

社会貢献ができる喜びは、何物にも変え難い。

― 実社会の課題に向き合い、課題解決のお手伝いをすることで、どんなやりがいを感じていますか。
 
磯山:私は「地元に残って、地元のために力を注ぎたい」と思っているので、富加町は地元ではないけれど、地域貢献、社会貢献ができるというのがすごく嬉しいし、手応えがあります。まだ2回行っただけなのですが、富加町には懐かしさと親しみを感じています。富加町の良さ、魅力をもっと見つけて、町を活性化できるような提案をしていきたいと思っています。
 
石川:実際にある町の、実際にある課題を解決する道を探り、提案できるというのは、本当にやりがいがあること。教科書だけの学びとはぜんぜん違います。町長さんも含めて、行政の方たちが私たちの提案を真摯に受け止め、話し合いに応じてくださるのも嬉しく、富加町のためにできることを精一杯やろうという気持ちになります。
 
磯山:私たちが訪れたときも、町長さん自ら駅まで出迎えてくださり、「一緒に頑張ろうね」と言ってくださいました。すごく期待されていることを感じました。
 

― 活動を進める上で難しいなと思うことはなんですか。
 
石川:昨日も他の市町村の景観計画を調べていたのですが、富加町ぐらいの小さな規模の町には景観計画というのがほとんどありません。富加町独自の、富加町ならではの計画を立てなければならないのですが、情報も少なく、なかなかハードルが高いなと思っています。
 
磯山:富加町には史跡や古墳も結構あるのですが、一つひとつが点在していて、かなりの距離があります。人を呼び込むためにも、自然や風景を楽しみながら史跡や資料館などを巡るロードマップを作ったらどうか、と提案したのですが、残念ながらあまり興味・関心を持たれませんでした。
 
石川:小さい町なので、駅にレンタルの自転車を置けば、自転車で自然や風景を楽しみながら、遺跡や観光スポットを一通り回れると思い、提案したのですが、役場の方からは、「自転車は夏は暑いし、冬は寒い。雨も降るし・・」という現実的なご意見をいただいて、なかなか先に進めません。でも、そこでめげたらおしまいなので、なんとか工夫して、町の人たちに喜んでいただける提案をしたいなと頑張っています。
 

卒業研究での活動を通して
スキルを身につけ、未来を拓きたい。

― 今後の予定と、目標を聞かせてください。
 
磯山:秋に富加町民まつりがあるのですが、そこでワークショップを開く予定です。小さな子どもから若者、高齢者までを対象に、自分たちの町のお気に入りの場所、大事にしたい場所を聞いて、「町民が大事に思っている場所」を可視化させ、それを景観計画に盛り込んでいきたいと思っています。
 
石川:大きなマップを作って、町民の方々にお気に入りの場所や大事にしたい場所をシールで貼ってもらうのですが、祭りの期間中はいつでも貼ってもらえるようにします。もちろん、私たちだけでは無理なので、富加町プロジェクトに参加している仲間たちにも手伝ってもらいます。
 
磯山:これまでは、私たちの意見や考えを中心に研究を進めてきましたが、町の人の意見や思いに耳を傾けたり、町の人の視点で物事を考えることで新たな発見があり、新たな取り組みにつながっていくのではと、すごく期待しています。
 
石川:そして12月には、私たちの研究活動の最終成果を富加町で発表するという計画もあります。町長さんも含めて、行政の方々に提案できるというのは、とても光栄なこと。富加町という実社会での実践的な学びを通して地域の課題解決に対応する力を養い、将来に役立てたいと思います。
 
磯山:もちろん、責任は重いし、プレッシャーもありますが、卒業研究の成果を後輩たちに手渡し、さらに発展させていくためにも頑張らないと。ゼミの長谷川先生のアドバイスもいただきながら、なんとか良い成果を残したいと思っています。
  


■ 金城学院報 with Dignity vol.43 はこちら

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