改札を出ると、ひんやりとした秋の空気に包まれる。ついこの前までは半袖でも暑いくらいだったのに、急に季節がひとつスキップしてしまったようで、私の体も木々の葉っぱもまだ秋の訪れについていくことができないでいる。それでも、私は一年の中でこの季節が好きだ。澄んだ空気を吸い込んで、家路を歩いていく。
まぶしいほどのコンビニの灯りの前を通りすぎる時に、幼い頃の情景を思い出す。この場所には、昔は小さな駄菓子屋さんがあった。子どもの頃には、お小遣いの小銭を握りしめて友達と一緒によく買い物に訪れていた。
私は、ふと思い出して、鞄の中を探る。
「あった」
四角い形の小さなチョコレートの包みを取り出して、そっと手のひらに載せる。かわいらしいおばけのイラストがプリントされている。
今日はハロウィン。ゼミの時間に、仲間たちとお菓子を持ち寄って、みんなで交換した。おやつの時間にほとんど食べてしまったが、まだ一つだけ鞄の中に残っていた。
手の上にこぢんまりと収まっているチョコレートを見て、こんなに小さかったかなと思う。子どもの頃はもっと大きかったのに。私は、丁寧に包みを開くと、歩きながら小さなチョコレートを口に運んだ。甘くて幸せな味が口の中いっぱいに広がる。
「ああ、同じ味だ」
久しぶりに食べたチョコレートは、子どもの時に食べた味と全く変わっていなかった。チョコレートが小さくなったのではなくて、自分が大人になったのだと気づくと、思わず涙が出そうになった。
就職のため、来春からは一人暮らしが決まっている。この通い慣れた道を歩くのも、あと何回くらいだろうか。
秋の夜風が寂しさを誘うが、昔と変わらないチョコレートの味が、私を応援してくれているようだ。
目尻の涙を指先で拭って、背筋を伸ばして私は歩き出す。
作:加藤大樹