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【Kinjo Spirit】 人間科学部 現代子ども教育学科 上村 千尋 教授

この記事は、2024年度金城学院報with Dignity vol.43に掲載された記事です。

上村 かみむら千尋ちひろ 教授
金城学院大学 人間科学部
現代子ども教育学科
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立命館大学大学院 社会学研究科博士課程前期課程修了。修士(社会学)

【専門分野】
社会福祉学(子ども家庭福祉、司法福祉)、社会学
【研究課題】
・子どもの意見表明を支援するアドボカシー
センター創出のためのアクションリサーチ
・児童自立支援施設における権利擁護
・イギリスのケアリーバー支援における権利擁護
【主な社会的活動】
・愛知県施設入所児童等意見表明推進事業
外部スーパーバイザー
・子どもアドボカシーセンターNAGOYA 理事
・中国地区児童自立支援施設協議会・専門委員会
スーパーバイザー
・名古屋市子どもの社会参画の推進懇談会 委員
【主な所属学会】
日本子ども虐待防止学会、日本司法福祉学会、
日本社会福祉学会、子どもアドボカシー学会(理事)

世界中の子どもが、安心して、自信を持って、自由に生きられるように。

そんな願いをこめて、国連が「子どもの権利条約」を採択して今年で35年。
しかし、依然として子どもの権利は十分に守られていないのが実情。
とりわけ虐待を受けた子どもの権利擁護は喫緊の課題、と上村千尋先生。

大事なことは、子どもの声を聴き、一緒に考え、支援につなげること。
そのための仕組みづくりや人材育成も必要。その研究活動にゴールはありません。
 

世界のすべての子どもがもつ「子どもの権利」とは。

私の専門分野は子ども家庭福祉学です。とりわけ虐待を受けた子どもや非行少年など、施設で生活する子どもの権利擁護や自立支援のあり方について研究しています。

子どもの権利への関心が強くなったきっかけは、2001年、横浜で開かれた 「児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」に国際協力NGOのファシリテーターとして参加したこと。

各国から集まった子どもたちと一緒に「子どもの尊厳と幸福を確保する社会のあり方」を考え、それを詩や歌、踊りなどで表現する機会にふれ、当事者が発信するメッセージの力強さを実感。同時に、子どもが自分の思いを言語化し、一緒に声をあげていく仲間の存在や、それをサポートする大人の存在がいかに大切か、そして、その子どもたちの声を社会につないでいく仕組みづくりの重要性を痛感したことが、今の研究・活動につながっています。

ところで、皆さんは「子どもの権利条約」をご存知でしょうか。

子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約で、1989年に国連で採択されました。日本は1994年に批准しています。

この条約が画期的であったのは、子どもは「保護の対象」であると同時に、尊厳あるひとりの「権利行使の主体」でもあることを明確に打ち出したこと。その最たるものが条約12条の「意見表明権」です。
 

子どもの声が聴かれ、その声が尊重されること。

意見表明権の中には、子どもたちの言葉にならない思いや助けを求める権利、加えて子どもが安心して自分の意見や思いを表明できる人間関係と居場所が保障される権利も含まれています。

しかし残念なことに、私たちの社会では子どもをめぐる環境が悪化し、子どもの声や意見が十分に聴かれていない、声が奪われている、という現状があります。なかでも児童虐待は深刻な子どもの権利侵害。2022年度に全国の児童相談所に寄せられた相談件数は21万件を超え、増加の一途を辿っています。

こうした現状を変えるべく、政府は2023年4月のこども家庭庁の発足にあわせ、子どもの権利条約の理念を盛り込んだ「こども基本法」を施行。
さらに、改正児童福祉法において、子どもの声に耳を傾け、その声を必要な支援システムの中につないでいく「子どもアドボカシー(意見表明等支援事業)」も、2024年度から本格始動。

子どもの声が聴かれ、権利を擁護していく仕組みがようやく整いました。
 

現場での学びをよりよい授業、調査研究につなげる。

子どもの権利擁護やアドボカシー活動を広げていくために、私はいくつかの社会的活動に関わっています。

一つは、スーパーバイザーという立場で児童自立支援施設を定期訪問し、虐待や貧困などを背景に抱える非行少年の権利擁護や自立支援のあり方を施設の人たちと協議しています。
また、児童相談所の一時保護所における訪問アドボカシー活動では、意見表明権について子どもに説明したり、生活に関する子どもの意見や要望、不安な気持ちなどを児童相談所につないだりする役割をしています。

こうした活動から得た学びを学生たちに伝え、子どもの権利や虐待防止についてともに考えていくことも、大学教員としての私の役割だと思っています。学生がめざしている保育者や教員は子どもにとって身近な存在。

子どもたちの言葉にならないSOSをいち早くキャッチできる立場でもあることを理解し、支援につなげるために必要な法律や制度を学んで、現場で生かせる人になってほしいと願っています。その専門知識や技術、「子どもは尊厳をもったひとりの人間である」という子ども観は、ひとりの女性として、市民としても生かすことができ、地域社会に貢献していく力となるでしょう。
 

【教えて先生!My Favorite】

西穂高岳独標(左)孤児の歴史を知ることができるロンドンの博物館(右)

自然が好きで、休日は家族と一緒に登山をしたり、森の中を散策したり。季節の花やお気に入りの花を飾ることも好きです。仕事に疲れた時は、大きなカップに香りの良い紅茶をたっぷり注いでティーブレイク。一息ついたら、さあ、またひと頑張りしよう、という気持ちになります。美術館巡りや映画・舞台鑑賞も大好きです。
 

上村ゼミの活動アルバム

子ども家庭福祉学で扱うテーマは、子どもの貧困や虐待など、社会と密接につながっています。

そのため上村ゼミでは、ユニセフハウス(東京)での研修、外国にルーツのある子どもを支援するNPO団体での学習支援ボランティア、地域の子ども食堂のボランティア、瀬戸少年院への参観など、フィールドワークを積極的に行い、学びをより深めています。
 

Q. 上村 千尋 先生ってどんな人?

温かくて、優しくて、いつもどこかで見守ってくれる。

私たちが不安を抱えたり、悩んだりしているときは、真剣に話を聴き、すべてを肯定的に受けとめた上で、適切なアドバイスをしてくれます。その言葉一つひとつに愛がこもっていて、前を向く力になります。上村ゼミの魅力は、授業が熱くて楽しいことに加えて、フィールドワークでいろんな体験ができること!私たちは今、「食」を切り口に、外国にルーツのある子どもたちに向けた小冊子を作る計画をしています。それも、フィールドワークを数多くしてきたことで、「子どもたちを取り巻く課題」が見えてきたから。これからもせっせと現場に通い、情報収集をして、中身の濃い1冊を作りたいと思っています。


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