※連載小説「リリィ」は、金城学院大学を舞台にした物語です。
この物語はフィクションであり、実在の人物とは関連がありません。
「ただいまー」
アパートの扉の鍵を開けて、暗い玄関の灯りをつける。靴箱の上に置いてある小さな鉢植えのサボテンに、あらためて「ただいま」と声をかける。一人暮らしを始めてから数ヶ月。誰もいない部屋に帰ってきても、学生のころまでの習慣で必ず挨拶をしてしまう。大きな鞄と一緒に、一階の郵便受けに届いていた大きな包みをテーブルの上に置く。
「笹川ユリ様」
見慣れた母の字で、私の名前とアパートの住所が書かれている。裏側には、送り主として母の名前と懐かしい名古屋の住所が書かれていた。
何だろうと思い、私は丁寧に封を開ける。花柄の便箋に、短いメッセージが添えられていた。
ユリへ
元気にしていますか?だんだん暑くなってきますが、からだに気をつけてすごしてくださいね。ユリの大学から、卒業アルバムが届きました。お母さん、ちょっとだけ先に中身を見せてもらっちゃいました。ごめんなさい。本当に楽しい大学生活でしたね。ユリの思い出が一緒に感じられて、お母さん涙が出ました。
忙しい毎日だと思うけれど、いつでも帰っておいでね。応援しています。
お母さんより
手紙を読み終えると、目の中いっぱいに涙が広がって、便箋の花模様がぼやけてゆらゆらと揺れている。両手で目頭をぎゅっと押さえて、私は包みの中から大きなアルバムを取り出す。えんじ色の厚紙のケースから、重みのある冊子を引き出す。表紙には、十字に百合の花をかたどった校章と、百合の花の写真が載っている。私の名前と同じ、大好きな花。
ページをめくると、キャンパスの懐かしい風景が次々と目に飛び込んでくる。始めてあの坂を歩いた時。お気に入りの居場所だった図書館。友人と大笑いした食堂。あらゆる思い出が匂いや温度とともに蘇ってくる。気がつくと、あっという間に時間がすぎていた。私はテーブルの上にアルバムをそっと戻すと、コーヒーを淹れるためにキッチンに向かった。あたたかいコーヒーと一緒に、もう一度ゆっくりあの頃に戻ろう。
このアルバムは、いつでも私をあの場所に連れて行ってくれる。
作:加藤大樹
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あとがき
はじめまして、「ことばの樹」管理人の優作です。
これまで11作品の掌編小説をお届けしてきたことばの樹ですが、
この度、連載小説に挑戦することになりました!
連載小説のタイトルは「リリィ」。
金城学院大学を舞台とした架空のストーリーです。
今回のアルバムはリリィのエピソード0としてお届けいたしました。
4月からはリリィの本編を月1本のペースで作品をお届けしたい、
と部員一同意気込んでいます!
今までは作者の加藤先生しか表に出ていなかったので、
文芸倶楽部といっても加藤先生だけなんじゃないか?と思っていた方、違います。じつはことばの樹には部員が4名いたのです!
せっかくですので、ここで簡単に部員紹介をします!
加藤 大樹
物語の執筆を担当。文芸倶楽部ことばの樹の部長。
キミドリ
加藤氏のマネージャー兼雑用係(オールラウンダー)。
強子(きょうこ)
編集者兼カメラマン。
優作(ゆうさく)
編集者兼管理人。ことばの樹の名付け親。
部長以外はシャイでハンドルネームしか出せない!という部員たち(笑)
そんな部員たちの紹介は「ことばの樹」の記事で紹介しています。ぜひご覧ください。
今回のあとがきはここまで。
リリィの本編をどうぞお楽しみに!