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推理小説は産業革命の申し子!?

115限目 小説と時代背景
『推理小説が生まれた意外な理由?』
文学部 日本語日本文化学科

2018年10月掲載「車内の金城学院大学」

難解な謎解き、巧妙なトリック、衝撃の結末・・・

その楽しさ、面白さで、数ある小説ジャンルの中でも不動の人気を誇る推理小説は、ある時代を境に恐怖小説から派生したと言われています。

恐怖小説は18世紀後半、キリスト教的な倫理観、道徳観に対するアンチテーゼとして生まれたもので、古城や寺院などを舞台に起こる不可解な現象や事件は、怨霊や悪魔の仕業として描かれていました。
 
推理小説は、この恐怖小説から超自然的な要素を削ぎ落としたもので、名探偵が登場し、実に鮮やかに不可解な事件を解決するようになります。
 
なかでも、イギリスの作家コナン・ドイル(1859〜1930年)によって生み出されたシャーロック・ホームズは絶大な人気を博し、今も世界中のファンに読み継がれています。


推理小説から浮かび上がる、都市の光と闇

ホームズが活躍した19世紀後半のヴィクトリア朝時代は、18世紀後半から始まった産業革命でイギリスの経済発展が頂点に達し、人々の暮らしや社会が大きく変化した時代。
 
経済の中心が農業から工業へと移ったことで地方の人々が都市に流れ込み、都市に人口が集中。

科学技術の飛躍的な発展と繁栄の裏で、階級社会の最下層にいる工場労働者は過酷な労働を強いられ、飢えや貧困は犯罪の温床ともなりました。
 
指紋や血痕分析、毒物学、法医学、心理学など、犯罪捜査に科学的・合理的な手法が取り入れられるようになったのもこの時代で、
人々は「人間に解けない謎はない」という認識を持つようになりました。
 
上流階級の豊かで華やかな暮らしと、犯罪者や浮浪者がひしめくスラム。
産業革命によって様相を変え、巨大化した都市は、ホームズのような探偵にとって格好の舞台となり、天才的な頭脳と科学的知識を駆使して難事件を解決していくストーリーは一世を風靡ふうび

同時期に発達した印刷技術によって本や雑誌が廉価で買えるようになり、読者層も一気に拡大しました。
 
やがて文明開花を迎えた明治の日本にも海外の推理小説の翻訳本が次々と紹介され、謎を推理し、解き明かしていく探偵小説の手法は、日本の作家たちに大きな影響を与えました。

江戸川乱歩が名探偵・明智小五郎を生み出したのも、こうした時代背景が影響してのことでした。
 
 

文学は時代を映す鏡である

推理小説は謎解きの文学であると同時に、都市の文学でもあります。

ホームズのトリックは今となってはパターン化され、現代の読者にとっては謎解きの面白さは薄れていますが、それを補って余りある面白さが、ホームズが生きたヴィクトリア朝ロンドンの都市風俗やライフスタイルのこと細かい描写に見出されます。

ホームズの影響下で生まれた明智小五郎の物語も同様で、彼が活躍する作品には1920~30年代のモダン都市の風景が味わい深く描かれ、また〈少年探偵団〉シリーズでは戦後の子供達をめぐる世相が生き生きと映し出されています。

名探偵が活躍した時代の雰囲気に浸れること――それも推理小説に触れる楽しみのひとつなのです。
 
文学は時代を映す鏡。

その作品が生まれた背景を読み解くことで、当時の社会情勢や人間心理を知ることがき、作品への理解がより深まります。
 
 

文学の背景を学び、社会の姿を知る。
それが文学部 日本語日本文化学科。


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