見出し画像

お金の使い方を考える

生きていく上でなくてはならない「お金」。
生活していくためにはお金がなくてはならない一方で、そうした考えにとらわれて心を疲弊させてしまうこともあるのではないでしょうか。

中学校や高校では金融教育が始まり、お金の知識の重要性が高まっている今、お金との付き合い方を見つめ直すには絶好の機会です。

今回の選書は、愛知県瀬戸市の「本・ひとしずく」を営む田中綾さんにお願いしました。どちらも、お金や経済の知識がない人にも分かりやすく、読み応えのある2冊です。


■『NHK出版 学びのきほん 大人のためのお金学』

2時間で分かる「お金」の入り口

「2時間で読める教養の入り口」というコンセプトのもと、さまざまなジャンルの第一人者が、その基本をわかりやすく解説する実践的教養シリーズ「学びのきほん」から生まれた本。お金を考える上で欠かせない「市場」「資本」「投資」の基礎知識を押さえつつ、その起源や成り立ちをひも解くことで、お金に対する常識が変わります。

― この本を選んだ理由を教えてください。

田中:
お金は、幼い頃から身近にあって、一日に一度は触れるもの。でも、改めて「お金って何?」と聞かれた時、きちんと説明できる人がどれだけいるでしょうか。

この本には、お金の起源から、資本主義の歴史、仮想通貨などの新しいお金のことまで、とても分かりやすく書かれています。巻末にはお金学のブックガイドも収録されていて、もっと詳しく知りたいと思う人にも親切です。

お金の根幹を知ることで、問題と課題が見えてくる

― 「ここはぜひ読んで欲しい」と思うページはありますか。

田中:
第一章「お金の超・基礎知識」の中にある ”「人間を資本に含めない」ことが、経済学の最後の砦だと考えています。” という一文です。

資本とは「元手となって利益を生み出すおカネ」です。人間は、労働によって利益を生み出しますよね。つまり、人間は、資本と同じように元手となって利益を生み出すことができるわけです。そこで、著者は警鐘を鳴らします。人間を資本に含めてはいけないと。でも、いまの世の中はどうでしょう。儲けるためには<人間ひとりからどれだけの労働力を生み出せるか>という視点で考えていないでしょうか。

もし、この世界のあらゆる会社や経営者が「人間を資本に含めない」という共通認識を持っていたとしたら、世界はもっと優しいものになるのではないかと思います。

― 第6章「おカネとの関わり方を変えてみる」には、クラウドファンディングについての記述もありました。田中さんも開業に向けた資金調達のためにご経験されています。

田中:
「古民家を改装して本屋をつくりたい」という、私一人ではなかなかチャレンジできないことも、クラウドファンディングという仕組みを活かすことで資金を集めることができました。「応援したい」という意志がお金を動かしていくことを、自分自身のプロジェクトを通して経験しました。開業後は、資金を提供してくださった皆さんの間に「本・ひとしずく」を媒介としたコミュニティが形成されつつあります。この本が教えてくれるように、お金は本来もっと豊かな可能性を秘めているのだと思います。
 

書籍データ:『NHK出版 学びのきほん 大人のためのお金学』

『NHK出版 学びのきほん 大人のためのお金学』
著:中山智香子
発行:NHK出版


■『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』

稼ぐためではなく、自分の未来を変えるために

1988年生まれの投資家で、文筆家、バンドマン、グラフィックデザイナー、ウェブメディア運営者としても活動する著者が、お金の使い方に疑問を投げかける。消費者にとって最適化されたものが溢れるくそつまらない未来を変えるために、著者自身が考え直したお金との付き合い方とは。くそ笑える未来のためにできる実践的な方法を提示してくれます。

― 最初にこの本のタイトルを聞いた時、ドキッとしました。

田中:
投資や金融のビジネス書のイメージとはずいぶん違いますよね。このキャッチーなタイトルのように未来を変えることができるなら、その方法を知りたいと思って読みました。エッセイのような文章に気づきや共感が多くあり、今回のテーマに合わせて選びました。

まず、あらゆる買い物に意志を乗せてみよう

― 投資家というと大金を稼ぎ、人をそそのかす…という悪いイメージをしてしまいがちですが、投資という仕組みを活かしながら一生活者としてお金や社会と向き合う著者に親近感が湧きます。

田中:
第5章「俺たちが未来を変えるためにやれること」の中で、著者は「あらゆる買い物に意志を乗せる」という提案をしています。「応援したい」とか「好きだから」といった意志を持って、商品を選び購入する。その積み重ねで、つまらない街、つまらない社会、つまらない未来は変えていけるはずだと。

私が営む「本・ひとしずく」は愛知県瀬戸市にあるのですが、インターネットでモノが買える時代に、わざわざ足を運んで本を注文してくださるお客様が少なくありません。その理由は、小さな街の本屋を応援したいと思ってくださっているからではないだろうかと思います。生活者の誰もが意志を乗せた買い物をするようになれば、社会は確かにいい方へ変わっていくのではないでしょうか。

― お金をモノではなく、自分の価値観や思いと結びつけてみると、お金の使い方を少しずつ見直すことができるのかもしれませんね。

田中:
この本を読むと、自分自身で選び、投資をすることで、未来をより楽しく豊かなものにしていくことができるのだという希望を感じられます。著者の姿を通して、読者はお金との付き合い方を見つめ直すきっかけを得ることができるのではないでしょうか。お金は、使い道が大切ですね。これからの時代は、貯蓄で守っていればよいのではなく、投資という応援や買い物という投票をしてお金を活かしていかなくてはなりませんね。

書籍データ:『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』

『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』
著:ヤマザキOKコンピュータ
発行:タバブックス

愛知県瀬戸市にある「本・ひとしずく」の情報はこちら

本・ひとしずく
築100年以上の古民家を改装し、2021年にオープン。玄関の土間を活かした店内には、新刊書籍や古本、リトルプレス、雑貨がテーマごとに混在し、宝探しをするように本と出合える。「生活にひとしずくの潤いを」という想いのもとに営む店主・田中綾さんの本への愛情や人柄を慕って、通う常連客も多い。