私らしい歌声を届けたい!心をつかむヴォーカルテクニックをプロに聞いてみた
友達とのカラオケで「歌が下手だと思われたらどうしよう…」「歌は下手ではないけどうまくもないんだよね…」と悩んでいる子もいるのでは。そんなあなたに足りないのは「表現力」かも?
表現力を使って自分だけの世界観を作れば、自信をもって歌声を届けられるようになれるはず。今回は音楽芸術学科 声楽コースの能勢健司教授に、歌声を鍛えるには、そして歌うこととはなにかを聞いてきました!
音楽は文学!歌詞を深読みすれば見えるストーリーとは
☆自分の「思い出」が歌声のスパイスに
記者: 今回はよろしくお願いします!私も、感情を込めて歌うということが難しいと感じていて…。誰かを感動させられるような歌い方ができるようになるにはどうすればよいのでしょうか?
能勢:感情を込めるには、まずは歌詞を“読む”ところからスタートしてみてはいかがでしょうか。
記者:歌うより先に歌詞を“読む”!?それなら私にもすぐできそうです!
能勢: でも、ただ読むだけではダメですよ。自分の想像力を使って、歌詞のストーリーを読み解くことを意識してください。
記者:おお…一気に難易度が上がりました…。
能勢:難しいと思うかもしれませんが、大丈夫。コツは自分の「思い出」を使うことです。例えば行ったことのある場所が歌詞に出てきたら、その場所がどんな雰囲気だったか、そこでどのように過ごしたかなど、そのときの感情を思い出しながら歌詞の内容を想像する。そうすれば、歌うときに感情を乗せることができると思います。
記者:なるほど。自分の思い出が歌詞を読み解くポイントになるんですね。
能勢:「経験」とも言えますね。歌詞は詩なので、作者の伝えたい思いや感情をいろんな言葉で表現しています。それを考えずに歌詞だけ読んでしまうと、「なにを表しているのか分からない」となってしまいがち。そんなとき、自分の経験が歌詞を読み解く助けになるのです。
例えば、「私はあなたを思うと、苦しいけれども幸せです」という歌詞の場合、なにを表していると思いますか?
記者:うーん、なんとなく恋愛について語っているような…?
能勢: ご名答!これは恋愛の歌詞です。回答できたのは、おそらく自分の中に、恋愛で同じような思いをした経験があるからではないでしょうか。
記者:確かに!言われてみればそうかもしれません。
能勢:嬉しい、悲しい、苦しいなどの「喜怒哀楽」を凝縮したものが、歌詞や歌といえるでしょう。歌手はその歌詞がどのような思いを伝えたいのかを考え、自分の中にある「喜怒哀楽」とリンクさせ表現することで、歌の中にある感情をお客さんに分かりやすく伝えています。だからこそ、言葉を読み解けても歌の感情が理解できなければ、表現もうまくいかなくなってしまいます。
記者:自分の中に共感できるような経験がないと、歌詞にある感情を理解することは難しいということですね。
能勢:自分が経験したことを基にひも解けば、歌詞の中にある感情が理解しやすくなります。今は分からない歌詞も、人生を重ねることで理解できるようになるかもしれません。歌の「表現力」を磨くためにも、これから様々な経験をしていきましょう。
☆歌詞は作者の自伝!?
能勢:歌詞を読み解くとき、作者について知ることでより理解を深めることができます。この歌詞を制作したときの状況はもちろん、作者の生い立ちや幼少期の時代背景まで知ることで、より歌詞への理解を深められるでしょう。
記者:作者の歴史を知ることが歌詞の理解につながる、とはどのようなことでしょうか?
能勢:ある曲を例にあげると、作者が幼い頃、両親と一緒に暮らせなかったことへの寂しさを、木や雲を使って表現していました。そのまま読むだけでは分かりづらいですが、作者の人生を知ることで、両親に会いたくても会えないつらい思い出が基になった感情を理解できるようになるのです。
記者:作者の気持ちが分かれば自然と歌にも感情が入るかもしれませんね。
能勢:あとは、作者がなぜ歌詞にこの言葉を使ったのかを考えるための知識を増やすことも大切。例えば、歌詞の中に「ハト」が登場した場合、ハトが平和の象徴であるという知識があれば、作者が歌詞に込めた思いも自然と見えてきます。歌詞を理解するために、様々なものに興味をもち、知識を増やしましょう。
声を出せる体をつくって目指せ歌姫!
☆歌うまさんになる最大の秘訣は“表情”
記者:歌うとき、いつも声が細くなってしまいます。発声を良くする方法はあるのでしょうか。
能勢:もしかしたら「声が出にくい」という悩みは、日本人ならではの習慣が関わっているかもしれません。
記者:ええっ!日本人はなぜ声が出にくいのでしょう?
能勢:理由の一つは表情ですね。声を出すには、体をリラックスさせた状態にすることが大切。もちろん、表情も同様です。ですが、日本人は感情を顔に出して表現する文化があまりないため、表情が硬くなりがち。すると体も緊張してしまい、声がこわばってしまうのです。
記者:確かに表情豊かに話すのはあまり慣れていないかも…。
表情を柔らげて声が出るようにするにはどうすればよいでしょうか?
能勢:鏡で顔の筋肉を見ながら表情を変化させる練習をしましょう。同じ音程でも、笑顔を意識して歌ってみるだけで響きや音色が明るく変わります。でも普段から表情筋を使っていないと、思ったような音色はなかなか出せません。笑顔や泣き顔で動く筋肉はどれかを知り、意識的に動かす練習を続けることで自然と表情が柔らかくなっていくはず。ぜひ試してみてください。
記者:早速練習してみます!表情を鍛えれば、性格も明るくなるかも!?
能勢:それはあるかもしれません!明るい人は表情が豊かだったり体を動かすことが好きだったりしてハツラツとした声の持ち主が多いですが、考え方がピシッと固まっているような真面目な人ほど体や表情も硬くなり、声も力んでしまうといえるでしょう。
記者:声で性格診断ができてしまうんですか!すごく面白いですね。
能勢:声楽の世界では「舞台では丸裸だと思え」という言葉もあるくらい。丁寧な人なのか大胆な人なのか、歌にはその人の内面が表れます。表現力が豊かな歌手は表情や歌い方から違う。歌声で感情を伝える力を磨くためにも、表情を意識するのはとても大切です。
☆声を操る魔術師になるには?
記者:音程をつかむのが難しいこともあります。とくに高い音程が苦手で…。
能勢:声は「声帯」と呼ばれる器官で作られており、高い声を出すことに慣れていないと、無駄な力が入り声帯がキュッと閉まった状態になってしまうことがあります。この状態ではうまく音が出せず息苦しくなってしまうし、声が出たとしても詰まっているような苦しい歌声になってしまいがちです。
記者:なるほど…。こちらもトレーニング次第で変えることはできますか?
能勢:歌を歌うとき、声が響くための空間を口の中や喉の奥に作るような意識を持ちましょう。あくびしたときの状態というと分かりやすいかもしれません。音は空気と一緒に体から出るので、空間が広いと豊かに響く声がスムーズに出せるようになるのです。
息をいっぱい吸ったあと、口の中や喉の奥に空間を作り、息を吐きながら出したい高さの音を出す練習はかなり効果的。練習を積めば、高い声だけではなく、低い声やキラキラした声など、出したい声色に合わせてどのくらい空間を開けて、息を吐けばよいのかつかめるようになります。歌声を操る一歩だと考えて、ぜひ試してみては。
☆筋肉を“伸ばす”ストレッチで声も伸び~る!
記者:よく歌手の方が発声を良くするために運動をしているという話を耳にします。実際のところ、引き締まった体の方が声を出せるようになるのでしょうか?
能勢: 引き締まった体をつくるというのとは少し違うかもしれません。筋トレなどでガチガチな筋肉をつけてしまうと、体がどんどん固まって縮んでしまい、固い声になってしまうのです。
記者:筋肉をつければいいというわけではないんですね。
能勢:筋肉をつけるというより、体を“広げる”ために運動するという意識を持ちましょう。特にストレッチやヨガなど、筋肉を伸ばす内容のものがおすすめですよ。筋肉が伸びると体全体がリラックスした状態になり、声を出しやすくなります。
記者:筋肉を伸ばす運動ですね!ちなみに、有酸素運動はどうなのでしょうか?
能勢:基礎体力をつけるという目的ではいいと思います。声楽には肺活量が必要なので、肺を鍛えるために有酸素運動をしている声楽家も多いですね。発声を良くしたいと思ったら、気分転換もかねて、サイクリングなどから始めてみてはいかがでしょうか。
クラシックを学べば音楽が分かる!
☆同じ「歌う」にも違いが!?
能勢:歌い方についていろいろお話しさせていただきましたが、実は「クラシック」と「ロック・ポップス」などでは発声方法が違います。
記者:ええっ!同じ「歌う」ことでも、違いがあるんですか?
能勢:声帯の使い方が違いますね。
マイクを使って歌うことが多いロックやポップスは、マイクに声が通るよう低音から高音まで地声で歌うことがほとんど。のどぼとけの奥にある声帯を上に引っ張りながら、喉の奥を締めた状態で声を出しています。大声で歌うシャウトなどが苦しそうに感じることがあるのは、このためです。
一方でマイクを使って歌うことが少ないクラシックは、体や空気を振動させる方法で声を響かせています。要するに声帯を下に引っ張っていくようなイメージで、喉の奥に空間を作って歌います。体の中で声が「共鳴する」状態を作っているため、頭や鼻の穴、頭の空洞部分で音が振動し、大きく伸びのある声に。体を通して出た声と近くの空気を共鳴させることで、遠くまで響く歌声が出せるのです。
☆クラシックの歌い方が、歌声の「表現力」の基礎に
能勢:ロックやポップスとクラシックでは、求められる歌声は違います。ですが、根本の「歌う」という部分は同じ。クラシックの発声はロックやポップスで上手に歌うための土台になるのです。
記者:それは一体どういうことでしょうか?
能勢:例えば高音を出すとき、喉に負担をかけて歌うとすぐに声がかれてしまいますよね。そんなときは、喉の空間を作る歌い方を意識してみてください。口の中や喉の奥に空間を作り、たっぷり息を吐きながら歌えば、今までよりも高い声が出しやすくなるはずです。
記者:(あー。あー。と高い声を出してみる)。本当だ!高い声を出しているのに疲れていないです。
能勢:ロックやポップスを歌う中で「ちょっとこの音は出しにくいな…」と感じたとき、クラシックにおける歌唱のテクニックを使えば意外と歌えることもあると思います。
大きくてとても響く歌声は、どの席の観客にも歌を伝えるためといえるでしょう。また、歌詞がちゃんと伝わるよう、滑舌の良さも意識しますね。こうしたクラシックにおける歌唱のテクニックに、表情や声色、歌詞といった表現力が加わることで、人に自信をもって聞かせられる、自分だけの歌声づくりが叶うといえるでしょう。
記者:歌声に表現力を足すために声楽を学ぶということですね。遠い存在だと感じていたクラシックでしたが、ちょっと興味がでてきました!
能勢:今は動画ですぐ調べることができる時代。クラシックの歌手が歌うのを観たり聴いたりしてみて、自分がより楽しく美しく歌うための参考にしてみてはいかがでしょうか。
クラシックの世界には、まったく違う業界から歌手になる人も多数いらっしゃいますよ。ぜひ一度コンサートホールや劇場で生の歌声を聴いてみてください。自分の可能性を広げるいい機会になるかもしれません。
取材日:2022年11月22日
編集者:鈴木
記者:広瀬
カメラマン:高木
☆文学部 音楽芸術学科
☆金城学院大学公式サイト