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心を開放してマイペースで臨みたい春におすすめの「出会いが楽しみになる本」

入学や入社などで新生活がスタートして、何かと環境の変化が多くなる春。慣れ親しんだ場所や人との別れもあるけれど、その分新たな出会いもあるはずです。期待と緊張感でいっぱいの毎日に読書でちょっとリラックスして、明日に向かうエネルギーをチャージしませんか。
「出会いが楽しみになる本」を、名古屋市金山にある書店「TOUTEN BOOKSTORE」の店主、古賀詩穂子さんにセレクトしていただきました。

■『うちらきっとズッ友』

多面的に描かれたリアルな人物が織りなす物語

今年ドラマ化された『今夜すきやきだよ』の著者で、第26回手塚治虫文化賞新生賞も受賞しているマンガ家の谷口菜津子さん。6つの物語が収められたこの短編集では、友だちの嘘に気づく小学生、昔の同級生と久しぶりに再会する女性などが織りなすさまざまな友情が描かれています。

― 谷口さんの作品はどんなところが魅力ですか?

古賀:やさしいところでしょうか。中心的な人物以外の人柄もしっかり描かれていて、そこにやさしさを感じます。一人の人物が多面的に描かれていて、見方によって印象が異なるという描き方もすごく上手ですね。

― 私も本書を読んでそう感じました。身近な人のこれまでと違う一面を知ったことで急に親しくなる展開もありますね。

古賀:それがこのアンソロジーの良さの一つですよね。仲良くなるのかなと思ったらならない、という意外な展開も。でも、それがまたしっくり来る。そういう関係もあるよねとリアルに感じます。

― 谷口さんが描く人物像は現実的で共感できる点も多く、読後はなんだかあたたかい気持ちに包まれるのも魅力ですよね。
 

マンガでしかできない表現もある

― このブックガイド企画で初めてマンガを取り上げます。

古賀:セレクトする際に、マンガをぜひ加えたいと思いました。読みやすくて親しみやすい、今日は文字を読みたくないなぁという気分の時でも気軽に読めます。マンガでしかできない表現もあると思っています。

― 見開きを大きく使った動きのあるシーンでは、主人公の気持ちの強さが伝わってきます。

古賀:二人の大学生が仲良くなるきっかけのシーンも、マンガでなければあんなに面白くできないだろうと思います。心の機微などの表現も豊かなので、普段マンガを読まない人にもぜひ読んでみてもらいたいです。

― 主人公は小学生や高校生、子育てが落ち着いた女性など幅広くて、それぞれの年代の興味や関心事もしっかり描かれていると感じました。 

古賀:そうですね、いろんな作品が描ける方だなって思います。読み手としては、大人になったからこそわかる友情があるなと感じますね。「友情ってなんだろう」と問いかけるあとがきも、6つの短編の締めくくりとして読むと一層胸に迫ってきます。
 

書籍情報:『うちらきっとズッ友』

『うちらきっとズッ友』
著:谷口菜津子
発行:双葉社

■『臆病者の自転車生活』

自転車と出会ってポジティブになっていく女性

運動が苦手で繊細な著者、安達茉莉子さんが電動アシスト自転車と出会い、小さな冒険を重ねていく日々を綴ったエッセイ。自転車のある生活に魅せられ、ロードバイクを手に入れてロンググライドに出かけるまでになり、自分の「できない」を乗り越える女性の勇気に元気をもらえる物語です。

― このエッセイを選ばれた理由を聞かせてください。

古賀:私にとっての自転車は乗り物あくまでツールでしたが、「心が開放される」という安達さんの表現にふれて、その開放感が春っぽいなと思いましたし、出会いに対して積極的になれそうというイメージもあって選びました。

― 自転車と出会って、安達さんはすごいスピードでどんどん変わっていきますね。

古賀:自転車という移動手段を手に入れて、行動範囲だけでなく内面もポジティブになっていく。その様子が読んでいて気持ちいいですね。

― 安達さんの未知の世界への欲求と、自転車という自由度の高いツールが出会ってぐんと世界が広がったように感じますね

古賀:安達さんにとっては、自転車がどこでもドアみたいな感じになりましたね(笑)。扉が開いたんじゃないかと思います。このエッセイの後に、『自転車と女たちの世紀』という本が出版されています。自転車に乗ることで女性が自由を獲得してきたというフェミニズムの歴史の本ですが、自転車を手に入れることで感じる自由は、今の時代にも感じられることだと思います。
 

読書を通じて自分のペースを取り戻して

― ロードバイクの乗り心地をペガサスに例えたり、自転車の神様の計らいを感じたりという安達さんの感性がユニークですね。

古賀:安達さんは読書家で、ほかの著書には本の引用がたくさん出てきますし、最近詩集も出版されました。ですので、言葉の使い方もシンプルではないですね。さまざまな表現にふれてきた方の文章だと感じます。

― ご自身をクマに置き替えて描いた挿絵もかわいらしいですね。

古賀:いつも人間を動物に例えて描かれていますね。人間のままだと生々しく感じられる部分も、動物で描くことでワンクッション置いて柔らかくしているというのを聞いたことがあります。

― 今回の2冊をどんな風に楽しんでもらいたいですか。

古賀:春って人と出会う季節ですけど、人と会うってすごくエネルギーを使いますし、友だちを探さないと…なんて思うとプレッシャーも感じますよね。それで少し疲れてしまったときに読書の時間を通してリフレッシュしてもらえたらと思って選びました。どちらの本にもマイペースな人たちが出てくるので、読者の方も自分のペースを取り戻してまた新しいことにあらためて挑戦してほしいという思いも込めています。
 

書籍情報:『臆病者の自転車生活』

『臆病者の自転車生活』
著:安達茉莉子
発行:亜紀書房

■ 名古屋市金山の書店
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TOUTEN BOOKSTORE
文中の読点のように生活のなかのアクセントとなり、知的好奇心をくすぐる存在を目指す新刊書店。雑誌やコミック、歴史や文学、社会問題などジャンルを問わず多様な本がそろい、コーヒーやビールなどを飲みながらくつろぐこともできる。2階にギャラリーを備え、トークイベントや読書会、写真展などの催しも多い。


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