きょうは、どちらのパジャマを着たい気分ですか?
医療場面での「やさしさ」、「思いやり」とは?
わたしたちは、体調をくずして医療機関を受診することになった時、「やさしい看護師さん、やさしい先生(医師)だといいなぁ…」と思うのではないでしょうか。
また、これを読んでいるみなさんの中には、思いやりのある看護師さんになりたい、と思っている方も多いと思います。
ところで、医療場面での「やさしさ」、「思いやり」とは、どういう振る舞いのことなのでしょう。
ここでは、看護実践における「やさしさ」や「思いやり」のもつ意味をみなさんと一緒に考えてみたいと思います。
このことを考える時に鍵になる言葉が、「尊厳」です。
何やらいかつい文字面の言葉が登場してきましたね。
どういうことなのか、もう少し一緒に読み進めていきましょう。
日常生活援助を通して、その人らしさを支える。
わたしたちが「やさしさ」や「思いやり」を求める時、その背景には心細さや不安などのネガティブな心境があるのではないでしょうか。
まずは、入院によって患者さんはどんな状況に置かれることになるのか、ちょっと想像してみましょう。
今まで当たりまえだった生活ができなくなった。
病院の日課に合わせた毎日が苦痛。
大部屋にいるので、プライバシーが守られない。
入院生活の中で、患者さんはさまざまなストレスを抱えながら病気療養をしていることがわかります。
看護師は、このように制約が多い入院生活の中にあっても、できる限り患者さんの「その人らしさ」を大切にした日常生活の援助を心がけています。
たとえば更衣の援助をするときは、効率性に関心を払うだけではありません。
病室のロッカーにご家族が用意してくれている何枚かのパジャマを見つけたとしたら、それらを患者さんに伝えたうえで、「きょうは、どちらのパジャマを着たい気分ですか?」とたずねて、その日の気分に合わせて自分で決めてもらう工夫をしてみるのもよいでしょう。
これらの関わりには、患者さんが少しでも自分らしくいられるようにする支援、入院治療に主体的に参加することができるようにする支援、という意味が隠されています。
それから、「インフォームド・コンセント」も含まれています。気づかれましたか?
「自分で決め、自分らしく生きる」を支援する。
患者さんは、検査や治療などについて十分な説明を受け、納得した上で選択あるいは拒否する権利をもっています。
これを尊重するものが、「インフォームド・コンセント」です。
患者さんやご家族と一番近い距離にいる看護師は、日常の生活を支える中で、こうした患者さんの権利を守り、患者さんの気持ちや、日頃から大切にしていることに沿って、自分のことを自分で決めることができるための働きかけと情報提供、そして決定までのプロセスを支援していく役割があります。
ただ、「インフォームド・コンセント」という言葉が広く日本で知られるようになったのは1980年代後半以降のことで、その意義の浸透の程度は年代や地域などによっても異なるようです。
そのため「私が選んでいいんですか?」という患者さんがいたり、自分で決めることに慣れていない患者さんも、中にはいらっしゃいます。
先ほどの更衣の援助の場面で、状況について説明した上で、「どちらがいいですか?」と、患者さんに決めてもらうようにしたことは、患者さんに自らの権利を理解してもらい、自己決定をできるような支援でもあったのです。
また、パジャマの着替えをすることや、ベッドサイドのロッカーを開けることの同意を得ることも、れっきとした「インフォームド・コンセント」です。
そんな「やさしさ」や「思いやり」を介した日常生活の中での小さな積み重ねが、患者さんが自分らしさを取り戻し、自分のことは十分な情報を得、そしてそれをしっかり理解した上で自分で決めるという自律的行動への一歩を踏み出すきっかけにもなります。そして、それは「人としての尊厳を守る」という看護の原点とも重なります。
健康だけじゃない。その人らしさまでを支えられる看護職者へ。
それが看護学部 看護学科