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【Kinjo Spirit】 文学部外国語コミュニケーション学科 北原 ルミ 准教授

 この記事は、2022年度金城学院報with Dignity vol.41に掲載された記事です。

北原 ルミ 准教授
金城学院大学 文学部
外国語コミュニケーション学科
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1994年京都大学文学部卒業。1997年同大学院修士課程修了。
2002年同大学院博士課程単位取得満期退学。(2000年パリ第4大学DEA取得。)2003年度より金城学院大学文学部に就任し、フランス語、フランス文化、文学などを担当。日本語日本文化学科の小松史生子教授と金城シネマも運営。2021年度より国際交流センター長。

所属学会:日本フランス語フランス文学会
     日本18世紀学会
     Société Voltaire

13歳で神の声を聞き、17歳で百年戦争を勝利に導くきっかけを作った少女、ジャンヌ・ダルク。

ジャンヌを巡る文学・芸術作品は数多く、その描かれ方が社会の世俗化や
女性観の変化と密接に関わっていることに着目して、研究を続けている北原ルミ先生
それは、私たちが今、どんな時代を生きているかを考えることでもある、と言います。20世紀のカトリック文学からジャンヌ・ダルクへ、そしてヴォルテールへ。文学や映画、絵画、音楽を読み解きながら、思索の旅は果てしなく続きます


フランス文学の奥深さに惹かれて。

小さい頃から物語を読むことが大好きで、学校の帰り道も本を読みながら歩いているような子どもでした。

フランス文学との最初の出会いは高校生の時で、人間の残酷な面や暗黒の部分を見せつける小説が多いことに衝撃を受けました。高校時代は理想主義者だったので、人間や社会の闇をえぐるような小説世界は嫌だなと思いながらも読み進め、気がついたらフランス文学の魅力にどっぷりはまっていました。当時は中国で天安門事件があったり、ベルリンの壁が崩壊したりと、世界が大きく動いている時代。フランス語を学ぶことで、もっと広く世界を見てみたいという思いもありました。

大学は自由な学風に惹かれて京都大学に進学し、フランス語学フランス文学を専攻。フランス文学の中でも特に20世紀のカトリック作家(J.グリーン、ベルナノス、ペギー)を研究するうち、ジャンヌ・ダルクを描いた文学への興味に目覚めました。
ジャンヌを巡っては多くの作家が作品化していますが、その中でもペギーと18世紀の啓蒙思想家ヴォルテールに注目し、社会が世俗化し女性観も変わっていく中で作家自身の問題意識や想像力はどう働くのかを分析しています。
 

「世界の現在」を実感したパリ留学時代。

大学時代の一番の思い出は、修士課程で1年間、博士課程で2年間、パリに留学したことです。
最初の留学では、着いてすぐ、フランスの核実験に抗議するデモで出会った老夫婦やトロツキストの図書館員と友だちになり、占領期のレジスタンス、労働司祭と教会の葛藤、共産党への入党や退党など、彼らの人生経験を通して、それまで書物でしか知らなかった歴史的な事柄を生きた現実として感じられるようになりました。

博士課程では、20世紀フランス文学についての講義を受けつつ、1年目にはJ.グリーンの小説についての論文を書き、2年目はベルナノスについての研究に着手して国立図書館に通う日々でした。

特にフランスでは、20世紀に入ってイデオロギー対立が深まり、小説技法としても神のごとき全知全能の語り手の存在が疑問に付されるようになるのですが、そのただなかでカトリックの信仰を抱く個々の小説家がどのような語りの手法で小説世界を構築するのか、ということを考えていました。

パリでは、様々な国から来ている人たちと様々な形で出会い、話しを交わすことができたのも本当に得難い経験で、ひりひりするほど「世界の現在」を生きている実感がありました。
学生たちにも、可能であれば若いうちに留学してほしいなと思っています。
もちろん、多くの試練も待ち受けていますが、そうした辛さや苦しさと戦う時こそ、自分をより強くするチャンスです。

フランス文学研究のくみ尽くせぬ魅力。

たとえば「国境なき記者団」はフランスのNGOですが、こうしたNGOが生まれてくるのも、各時代の荒波にもまれつつ紡がれてきたフランス文学があるからこそ。

フランス文学に広く見られる辛辣な諷刺や諧謔の精神は、長いものに巻かれろ、権威を畏れ敬え、といった態度とは真逆であり、かつ自己をも容赦しないで笑いや分析の対象にする時、真に自由を感じさせます。

フランスの作家たちは常に政治や社会と緊張関係を持ちながら、自己意識や批判精神を研ぎ澄ましてきたのです。大学でフランス文学を学ぶということは、こうした作家たちが、歴史の中での現在をどう位置づけていたのか、社会とどう向きあっていたのかを、自分なりの視点をもって分析し、読み解くこと。そこから新たな発想や興味が生まれてきます。

それは自分が生きている「今」を考えることでもあり、変化の早い社会を生き抜いていく力を養うことでもあります。

【教えて先生!My Favorite】

趣味は、文学、映画、ドラマ、音楽、絵画などを味わうこと。好きな作家は、須賀敦子、山田稔(恩師)、林芙美子、チェーホフ、莫言、フラナリー・オコナー、イーユン・リーなど。心の映画は、イタリアの監督パゾリーニの『奇蹟の丘』。最近はまった音楽は、フランスの作曲家メシアンの『幼子イエスに注ぐ二十のまなざし』です。
 

北原ルミ先生の活動アルバム

北原ルミ先生の翻訳書。『幻想のジャンヌ・ダルク』
は、乙女、預言者、騎士など、様々に描かれたジャンヌを当時の史料などから分析、再構築した1冊。『寝る前5分のパスカル』は、『パンセ』で有名なパスカルの生涯と思想を紹介するもので、パスカル研究者と一緒に翻訳しました。

2023年3月の卒業式でゼミ生と一緒に。ゼミ生はフランス文学を中心に、映画、絵画、音楽など多様なテーマで研究しています。

Q. 北原 ルミ先生ってどんな人?

フランス文学を「学ぶ楽しさ」を知りました

北原先生の授業は密度が濃く、楽しいので、学んだことがしっかり記憶に残ります。文学作品を読み解く楽しさを教えてくれたのも北原先生で、例えば3年次でヴォルテールの作品を読んだのですが、新たな発見や気づきがあり、他の文献を読む時も、多角的に見たり、考えたりすることができるようになりました。(丹羽)

学生に寄り添い、支えてくれる先生

北原先生は知識が豊富で、授業もフランス文学に留まらず、ヨーロッパやアジアの文化・芸術を総合的に教えてくれるので、視野が広がりました。また、学生のことを親身になって考えてくれる先生で、私自身、病気をして1ヶ月ほど大学を休んだことがあるのですが、その時も優しく見守り、支えてくださいました。
感謝しかありません。(鬼塚)



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