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バトン

やりたいことは何?
なりたいものは何?
そう尋ねられるたび、いつも答えに困る。

先生に勧められてやってきたオープンキャンパス。
駅からの坂道を一人登っていくと、緑の木々の中に煉瓦造りの講堂が見えてくる。
青空に映える緑色の屋根の先端から、美しい鐘の音が心地よく耳に届く。
キャンパスのゲートをくぐる時には、モヤモヤした気分は今日の青空のようにすっかり晴れやかになっていた。

ピンク色のポロシャツを着た先輩が優しい笑顔で迎えてくれる。
ドラマで見たような広い教室。
ステンドグラスの光がおごそかな講堂。
たくさんの本に囲まれて静謐な空気が流れる図書館。
講義棟のロビーからは、ハンドベルのメロディーが優しく鳴り響いている。

凛としたその人は、とても嬉しそうな顔で、私たちにその一つ一つを紹介してくれた。
このキャンパスで過ごす一瞬一瞬が、まるで私自身が体験しているかのようにありありと伝わってきた。
キャンパスツアーを終えると、私の心に、「この人みたいになりたい」という思いが自然に芽生えていた。

帰り道の下り坂は足取りが軽い。
自然に笑顔になっている自分に気づく。
まだ何がやりたいかはわからない。
なりたいものも見つからない。
でも、なりたい人なら見つかった。
この場所で、いつかあの人みたいになりたい。

教室の窓から、キャンパスの入り口を見下ろす。
緊張した面持ちの制服姿の高校生たちがこちらに向かって歩いてくる。
あれから三年。
私はあの日のあの人に少しは近づけただろうか。
この大学で、かけがえのない仲間ができた。
やりたいことも見つかった。
叶えたい夢もできた。
今日これから出会う高校生たちの目に私はどう映るだろう。
鏡の前に立ち、今の自分と向き合う。
ピンク色のポロシャツの襟を正すと、私は階段をまっすぐに降りていく。
あの人からもらったバトンを渡すために。

作:加藤大樹

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