元旦の朝。
いつもよりも少し早起きをして、家の前の坂道を下っていく。
三歳の息子は、私と夫の間で、両方の手をそれぞれつないでブランコみたいに揺られてごきげんだ。
吐く息は、わたがしのように真っ白だが、オレンジ色の大きな初日の出は暖かな光を届けてくれる。
息子のダウンジャケットのポケットには、一枚の年賀状が大切に収まっている。何度も消しゴムで消しながら、大晦日に大好きなじいじとばあばのために書いたものだ。
色鉛筆でカラフルに書かれた祖父母の似顔絵に、「ことしもいっぱいあそぼうね」と一生懸命練習した文字が並んでいる。
坂の下の商店の前のポストに着くと、息子は丁寧にポケットからはがきを取り出す。
「おてがみ、じぶんでいれるー」
とせがむ息子をポストの高さに抱き上げる。ゆっくりとポストの口にはがきが吸い込まれるのを確認し、そっと地面に降ろす。
家路につこうとするが、息子はポストの前から離れない。なぜだろうと思って覗き込むと、手を合わせて赤いポストに向かってお祈りをしている。
その姿が可愛らしくも微笑ましくもあり、
「ポストにお祈りしてるの?」
と、後ろからそっと声をかける。
「おてがみ、ちゃんととどきますようにって、おねがいしてたの」
小さな願い事にハッとさせられる思いだった。
夫の大きな手が、息子の栗色の髪を優しく撫でる。
また三人で手をつないで、家への坂道を歩いていく。
少し大人びて見える息子の横顔を見ながら、毎日の小さな願いと感謝を大切にしようと心に誓った。
作:加藤大樹