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憎しみの連鎖を断ち切り、和平を実現することはできるのか

私たちが何者かから酷い仕打ちを受けた時、”悲しい””つらい”という思いとともに、そんな目に遭わせた相手を憎む気持ちを抱いてしまうかもしれません。とても耐えられない悲惨な出来事の当事者となった時には、相手に復讐したいとさえ考えてしまう可能性も…。

そんな悲しみや憎しみがあふれているであろう紛争地帯にあって、相手を赦し和平や共存への望みを捨てない人がいます。その人はどんな人生を生きてきて、今どのような思いでいるのか―。

今まさに観ておきたいドキュメンタリー映画があります。


■『私は憎まない』

共存の可能性を信じるガザ地区出身の医師

©Filmoption

イゼルディン・アブラエーシュ博士は、パレスチナ人でありながらイスラエルの病院で働くことになった初めての医師。イスラエル人とパレスチナ人両方の赤ちゃんの誕生に携わる自らの医療を通して、すべての人の平等、正義、自由の上に共存は可能であることを体現してきました。しかし、2009年にアブラエーシュ博士の3人の娘と姪が、イスラエル軍の砲撃によって殺害されるという悲劇が起こり、彼のゆるしと和解の精神が究極の試練にさらされることにー。

『私は憎まない』は、3人の愛娘を殺されてもなお共存の可能性を信じ、ヒューマニティに基づき行動するガザ地区出身の医師、アブラエーシュ博士に迫るドキュメンタリー映画です。

作品を上映するシネマスコーレの支配人・坪井さんに、この映画について伺いました。
 
― 2023年10月にハマスのイスラエルへの攻撃があり、それ以降、現在までガザへの攻撃が繰り返されている状況で公開される作品ですね。

坪井:今まさに世界で起こっている出来事とともに、それがなぜ起きたのかも知ることができる。ドキュメンタリー映画としての役割をとても強く持っている作品だと思います。
この作品を観ると、“遠い国で起きていることだから”と無関心ではいられなくなるはずです。なぜなら、この作品は戦争や分断ではなく、アブラエーシュ博士という「人」をとらえたドキュメンタリー映画ですから。
  

博士に批判的な人の意見も伝える

©Filmoption

― 博士は、イスラエル軍の砲撃で娘たちの命を奪われるという、とてつもない悲劇に見舞われます。

坪井:そうですね、これはもう作品を観る前に知らされている事実ですが、とても衝撃的なシーンなんですよね。ここは本当に映画の力を感じる部分なので、劇場でしっかり見届けて頂きたいです。博士はイスラエル側の責任を追及しながらも、相手を憎んだり復讐をしようとはしない。パレスチナとイスラエルにこんな人たちが多くいたらと思いますが、それがなかなかできることではないので、紛争は終わらないのだろうと思いますね。
 
― 産婦人科医としてイスラエル人も診療するなど、命は平等という信念がゆるぎないですよね。

坪井:博士の姿勢に批判的な人もいて、博士がそういった意見を聞く場面もあります。博士自身の思いだけでなく、周りがどう思っているかもきちんと伝える内容ですね。それは、国についても同じで、パレスチナとイスラエルという当事者だけでなく、ほかの国がどう見ているかも描かれていて、非常に濃密な内容になっていますね。
  

女性の学びを支援して平等な社会を

©Famille Abuelaish

― 映画の公開時に、博士が来日された際のインタビューで「現状を変えるためには、女性の力が必要」といった話もされていました。

坪井:博士は大学に進学して学びたい女性の支援をしているそうです。パレスチナは依然として男性社会のようで、女性をサポートする活動によって、男性と女性が平等に暮らせる社会を実現しようとしているのではないでしょうか。映画の中では、博士のお母さんや奥様、娘たちの強い意志が伝わるシーンもありました。産婦人科医としての経験やご家族の影響から、博士は“男性だけでなく、女性の意見や視点も重要だ”という考えを強く持たれたのかもしれません。
また、子どもの頃、貧しかった博士が医師の仕事に就くことができたのは教育のおかげなので、学びを重視していることもあると思います。
 
― 作品について、その他にふれておきたいことはありますか。

坪井:作品の中で、一部アニメーションが使われているところがあって、より幅広い層にわかりやすく伝えられる効果を果たしていると感じました。
博士の信念には曇りがなく、その言葉は作品を通して、観る人に強く訴えかけてきます。博士の思いをダイレクトに伝えるのに、ドキュメンタリー映画はとても適した方法だと思います。パレスチナ問題に興味があるなしに関わらず、できるだけ多くの人に観て頂きたい作品です。
  

『私は憎まない』シネマスコーレにて、11月9日から上映予定。

『私は憎まない』の予告編はこちら

 シネマスコーレ劇場情報

シネマスコーレ
映画監督の若松孝二氏が1983年に立ち上げた、名古屋駅西口にあるミニシアター。2023年に開館40周年を迎えた。アジア映画、日本映画、インディーズ作品などを中心とした多彩なプログラムに加えて、作品を盛り上げるイベントにも力を入れている。

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