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教訓や答えを求めるのではなく、体験するという映画の楽しみ方

無駄がなく、わかりやすい。それは簡単で手軽かもしれませんが、世の中はそれほど簡単に割り切れることばかりではありませんよね。

人間が一面的ではなく、いろいろな要素を持っているように、映画や文学などでもさまざまな問いが散りばめられ、多様な見方ができる作品があります。ストーリーを追って、予定通りの結末にたどり着くのとは違う楽しみ方を見出してみるのはいかがでしょうか。
 


■『悪は存在しない』

世界が注目する濱口監督の最新作

©2023 NEOPA / Fictive

自然が豊かで、昔からの住民と移住者が穏やかに暮らす長野県水挽町(みずびきちょう)。東京から近いこともあり、グランピング場を作る計画が持ち上がる。芸能事務所による補助金目当ての計画は、森の環境や町の水源を汚しかねないずさんな内容で、そこに暮らす親子、巧と花の生活にも影響を及ぼしていくー。

前作『ドライブ・マイ・カー』が第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞し、大きな話題となった濱口竜介監督の最新作、『悪は存在しない』。

作品を上映している、ナゴヤキネマ・ノイの支配人・永吉さんに、映画の見どころを伺いました。
 
― 第80回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞した作品ですね。

永吉:濱口監督はこれまでの作品が、三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭、ベルリン映画祭)に加えて、アカデミー賞でも受賞しています。これは日本人では黒澤明監督以来の快挙らしく、海外でも非常に評価が高い監督です。この濱口監督の新作として、ぜひ見て頂きたいと思います。
 
― 濱口監督が海外で高く評価されているのはなぜでしょうか。

永吉:これは私にもよくわからないところがありますが、日本と海外では視点や受け取られ方が違うようです。例えば、濱口監督の『偶然と想像』という作品があり、私たちが観るとそうは思えませんが、海外では“ウケる”場面があり、笑いが起きるそうなんです。
 
― それは興味深いですね。他には何か考えられますか。

永吉:『ドライブ・マイ・カー』は西島秀俊さんが主演でしたが、知名度の高い俳優さんが出ていない作品もあり、海外の方から見るとキャストがスターなのかどうかがわからない。余計な先入観を排して観られる映画になっているのかもしれません。
  

清々しさも居心地の悪さもあわせ持つ作品

©2023 NEOPA / Fictive

― 環境問題を問う作品かと思って観ると、それだけにはとどまらないという印象があります。

永吉:そうですね、最近話題になっているようなテーマを描いた作品と思って観ていると、最後にびっくりするような展開がありますしね。この作品について、“わかりにくい”という感想もありますが、映画を観て何か教訓を得るとか何を言いたいか知るというのではなくて、
映画を体験する気持ちで見て頂くのはどうでしょうか。長野県の自然の美しさや清々しさ、それとは異なる居心地の悪さなどを、それぞれの瞬間に体感して欲しいです。
 
― 住民への説明会のシーンなど、著名な俳優さんがいないことで、どこかドキュメンタリーのようにも感じられます。また、誰かに何らかの役割を期待して観ることがないので、先が読めない面白さもありますね。

永吉:たしかに、作り物的な印象を受けにくいかもしれません。まさに未知の映画として体験して頂くといいですね。
 

『悪は存在しない』ナゴヤキネマ・ノイシネマスコーレほかにて、上映中。

『悪は存在しない』の予告編はこちら

 ■『すべての夜を思いだす』

世代の異なる3人の女性と街が主人公

©2022 PFF パートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人 PFF

高度経済成長期とともに開発が始まった東京郊外の街、多摩ニュータウン。入居が始まってから50年余り、この街には静かだけれど豊かな時間が流れている。春のある日、友だちから届いた引っ越しハガキを頼りにニュータウンの道を歩く知珠。亡くなった友人の母に会いに行く大学生の夏。行方知れずの老人を探す、ガス検査員の早苗。

それぞれの理由で街を移動する3人の女性が、街の記憶にふれ、誰かに思いをめぐらせるある日を捉えた作品が、『すべての夜を思いだす』です。
 
― 多摩ニュータウンという新興住宅街が舞台ですね。

永吉:この作品は、3人の女性と街が主人公といえるかもしれません。開発からかなり時間が経ち、当時植えられた木はずいぶん大きくなっている。この辺りでいうと、高蔵寺ニュータウンみたいな所でしょうか。
 
― その街に3人の女性が現れて、物語が展開するのでしょうか。

永吉:女性たちが居場所を探すような要素が入っていて、そこにいない、映画には出てこない人を訪ねようとする話です。静かに流れる時間の中をふらふらしているように見えますが、その状態が街の成り立ちを語っているようなところがありますね。
  

名古屋のバンドが音楽を担当

©2022 PFF パートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人 PFF

― 年齢や職業なども異なる女性たちの生活や人生も描かれていきますか。

永吉:そのあたりも少しずつ開かれていきますね。都市とその周辺に暮らす人たちの生活のありよう、みたいなものがよく表現されていると思います。
 
― 音楽には名古屋のバンドも関わっているとか。

永吉:名古屋のバンド”ジョンのサン”が担当しています。私も以前から知っていますし、うちの映画館にはメンバーと親しいスタッフもいますよ。
 
― 清原 惟監督は、初の長編作品『わたしたちの家』と本作がともにベルリン国際映画祭で上映されるなど、注目を浴びているようですね。

永吉:そうですね。最新作『A Window of Memorie』は、愛知芸術文化センターが開館以来、年に1本のペースで制作している映像作品の最新作でもあると聞いています。その点では、監督も名古屋と縁がありますね。
 

『すべての夜を思いだす』ナゴヤキネマ・ノイにて、6月8日から21日まで上映予定。

『すべての夜を思いだす』の予告編はこちら

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ナゴヤキネマ・ノイ劇場情報

ナゴヤキネマ・ノイ
2024年3月名古屋・今池に誕生したミニシアター。元名古屋シネマテークのスタッフが代表となり、映画館の存続を望むファンや映画関係者、今池の人たちの期待に応えて立ち上げた。「何か」を持ち帰ることのできる、ミニシアターならではの映画体験を提供する。

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映画紹介マガジン「スクリーンの中の私」

 


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