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被災地に思いを寄せて

晴れやかな新年のはじまりを一変させた「能登半島地震」。地震の後は、しばらく不安で本を手に取る気持ちになれなかったという「古本屋かえりみち」の池田望未さん。
「悲しみや出口のない不安を抱えている人に、お守りになるような本を届けたい」と、2冊の本を紹介してくれました。


■『ずっとまっていると』

誰かを待つのは、無駄な時間?それとも…

主人公の“あかね”が待ち合わせの場所で友だちが来るのを待っています。あかねは早く会いたくて、いてもたってもいられません。その場所には、3日も前から“あるもの”を待っているカエルがいて…。
イライラしたり、心細くなったり、急に楽しくなったり、くるくると変わる女の子とカエルのやりとりを通して、待つ時間の豊かさを感じられる物語です。
 
― この本を選んだ理由をお聞かせください。

池田: 何か災害が起きた時、そこで何が起きているのか、人々や動物たちは無事なのかと不安が身体中を駆けめぐります。でも、様々な事情ですぐには確認できないことがありますよね。状況が分かるまで、不安が増すばかりで、穏やかではいられない。『ずっとまっていると』は、女の子とお友だちの待ち合わせのお話ですが、知らせを待つ人の不安や焦りを和らげてくれるような物語なのです。
 
― 待つというのは、もどかしいものですよね。

池田:そうですね。ただ待つことしかできなくて、自分の無力さを感じたり、約束することの不確かさを思い知らされます。でも、相手の存在や一緒に過ごす時間が大事で好きだからこそ、そんな気持ちになるのですよね。そのことをこの作品が再発見させてくれました。
 

待つ時間は、相手のことを思う時間

― 池田さんがお気に入りのシーンはどこですか。

池田:主人公のあかねが、カエルに“待つこと”の魅力を教えてもらう場面があります。「その人のことを考えていたら、時間なんてあっという間にすぎますよ」というカエルの言葉に応じて、あかねは友だちのことを思い浮かべます。その時の、あかねの言葉や表情が好きですね。大事な誰かを思う時間は温かいものなのだと感じられるシーンです。
 
― 主人公の女の子のキャラクターも物語の魅力ですね。

池田:豊かな想像力とユーモアの持ち主ですね。カエルの気持ちを知るために、目を閉じてカエルになりきって、鳴き声や姿まで真似をする。「なんて本格的な想像なの!」と驚きました。そうまでして相手を知ろうとするあかねだから、友だちを待つのにも一生懸命になれる。きっと読み手のみなさんも、物語の結末に心が高鳴るのではないかと思います。

書籍データ:『ずっとまっていると』

『ずっとまっていると』
作:大久保雨咲 絵:高橋和枝
発行:そうえん社

■『神の子どもたちはみな踊る』

阪神・淡路大震災の前と後。 6人の人生を描いた連作短編集

時は、阪神・淡路大震災が発生した直後の1995年2月。直接の被災者ではないものの、地震を境に自分自身や家族に何らかの変化が起きた人たちの、場所も境遇もそれぞれ異なる人生。“神の子”として育てられた青年が、父親と思わしき人物と出会ったことで体験する予期せぬ出来事を描いた表題作など、全6編が収録されています。
 
― この小説は、阪神淡路大震災から約5年後の2000年の発行ですね。

池田:私がこの本と出合ったのは十年以上前で、大学生の時でした。作品の一編の「アイロンのある風景」を、大学の講義で読んだのです。つかみどころがないのになぜか惹きつけられたことをよく憶えています。それから今に至るまで何度も読み直してきました。
 
― どの物語にも確信を掴めないような読後感を味わいました。どのように読むのがよいのでしょうか。

池田:たしかに曖昧な後味の作品が多いと感じるかもしれません。私は、理解するというより、ただ在るものを見つめるように読んでいます。あまり難しく捉えず川辺に座って流れに足を浸すような感覚で向き合ううちに、この作品世界に自分自身が少しずつ馴染んできたように思います。最近では「私たちの生きている世界は、この小説のようにできているのかも」と感じるようになりました。
  

個と世界は、不確かだけれど結びついている

― この小説の魅力はどんなところにありますか。

池田:能登半島地震の後、不安で本を開くことができなかった時に、この本に流れる空気や情景を思い出して、心の置き所のようなものを感じることができました。
災害が起きた現場と自分がいる場所。他者と自己。外側の自分と内側の自分…。遠いようで、時として親密に感じられたり、逆に、近くにあると信じていても、実は不確かで、遠く離れているのだと愕然がくぜんとしたり。その両方を描くことで“個と世界の微妙な結びつき”を示唆しているように思います。
 
― この小説が、池田さんに寄り添ってくれたのですね。

池田:そうですね。本って、本当に気長で寛容な存在です。何らかの都合で読めなくても、読むべき時まで待っていてくれるし、一読しただけでは理解しがたくても、何度でも語って聞かせてくれる。こちらの歩幅を尊重してくれる友人のようです。今回の震災を経て、改めてそう感じています。
 

書籍データ:『神の子どもたちはみな踊る』

『神の子どもたちはみな踊る』
著:村上春樹
発行:新潮社

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愛知県春日井市にある
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古本屋かえりみち
勝川商店街にある古い商家を改装したシェア店舗「TANEYA」の2階。「だれもが“ひとり”にかえる場所」をコンセプトに、児童書、文芸書、芸術書などの古本をそろえる。ギャラリーも併設し、アートのほか、衣食住に関わるイベントを開催。

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