お寺が人気の福祉施設に生まれ変わった!?
近年、空き家や空きビルを福祉施設として再利用する動きが広まっています。
その背景には、全国各地に空き家・空きビルが増え続け、社会問題になっていること。
その一方で、高齢者や障がい者の生活支援や介護予防につながるサービスを、利用者が住みなれた地域で提供したいというニーズがあることです。
使われなくなった店舗や料亭、診療所や信用金庫など、これまで多くの建物が福祉施設に転用されていますが、そのほとんどが建物はそのままに、室内のみを改修しているため、地域にすんなりと溶け込んでいます。
なかでもユニークな事例として注目を集めているのが、石川県小松市にある「三草二木西圓寺」。
住職が亡くなり、廃寺となっていたお寺を改修した福祉施設で、長年、障害者支援に取り組んできた社会福祉法人「佛子園」が運営。障がいのある人の就労や日中活動支援、高齢者のデイサービスなどを行っています。
障がいのある人も、ない人も、
ごちゃまぜで過ごせる場所
お寺の外観をそのまま残した建物に入ると、かつて本堂だったところにはカフェ(夜は居酒屋に変身!)や昔懐かしい駄菓子屋、手づくり味噌や漬物を販売するコーナーもあり、地域住民も自由に出入りできます。
とりわけ人気なのが地下750mから湧き出る天然温泉で、地元の人には無料で、一般客には400円で開放。
障がいのある人もない人も、子どもも高齢者も、一緒に温泉につかり、風呂上がりにはお堂に集まって、食事やおしゃべりを楽しむ、それが日常の風景になっています。
さらにこの施設の大きな魅力は、障がい者や高齢者の働く場にもなっていること。
カフェで食事を運んだり、風呂場の掃除をしたりと、それぞれが自分なりの役割を見つけ、さまざまな人と関わりながらいきいきと働いています。
地域の人々に大切にされ、心のより所でもあったお寺が、温泉付きのコミュニティセンターに生まれ変わり、再び地域の人々が集い、交流できる場として機能。
境内には釣鐘も残され、大晦日の夜にはまちに除夜の鐘が鳴り響きます。
団地の空き店舗が地域の人々の交流拠点に
もうひとつご紹介する事例は、NPO 法人「わっぱの会」が運営する「ソーネおおぞね」。
名古屋市北区の築40年を超える集合住宅の1階にあった空き店舗(スーパー)を改修した複合施設で、本学環境デザイン学科の学生の研究活動の場にもなっています。
およそ300坪のスペースには、キッズスペースのあるカフェレストラン、障がい者施設でつくったパンや日用品を販売するショップ、資源買い取りを行うスペース、地域サービス相談コーナー、多目的ホールなど5つの機能が整備され、多世代交流の拠点になっています。
また、上階の住宅部分には空室を活用した70戸のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)もあり、入居者の方たちにとって、「ソーネおおぞね」は 食事や買い物の場であり、地域の人々とふれあう憩いの場。
住まいとコミュニティの新しいかたちが生まれています。
これまで高齢者や障がい者施設は郊外に建てられることが多く、利用者はケアは受けられるものの、孤立感を感じ、生きがいも見つからないという実情の中で、今回ご紹介した2施設はいずれもまちなかにあり、障害のある人、ない人、地域の人、みんなが立ち寄り、自然につながっています。
その姿は、これからの地域福祉のあり方のひとつを示していると同時に、人口減少社会における建築とは、新しい建物を建てるだけでなく、今ある建物をどう活かしていくかという視点も大切、ということを私たちに教えてくれます。
建築の今を学び、豊かな社会づくりにつなげる。
それが生活環境学部 環境デザイン学科。
2016年9月掲載 『車内の金城学院大学 90限目』 はこちら